「男ができた。」
二人きりの夜に50歳の妻が突然、言い出した。
驚いた。
「で?」
考えたあげくにそうしか言えない冷めた夫婦だ。
新聞を見ながら、やっと切り出した次の言葉は、
「どんな奴だ。」
あとの会話は覚えていないが、
取り乱さないように心がけたのは覚えている。
話の流れで、
相手の男に会うことに、・・・・・なぜ?今考えても不思議だ。
休日の午前中、近所のロンという古い喫茶店で対面。
私と妻と現れた相手の男。と二人の他の客。
30代半ばの独身男性、背は低く、身体は華奢で青白い。
で、気は弱そうな古いタイプのガリベン君だ。
中学校の時まで息子が通っていた塾の先生らしい。
男は「すみません!」そう何度も謝っていた。
妻との間はこの半年ぐらいらしい。
空気が読めないのか、妻とタメ口で確認しながら話をしだす。
でも不思議なくらい悪びれない妻が男をかばう。
私に怒りは不思議と無かった筈だ。
ただ、あきれた。
しばらくの間、沈黙が続く・・・。
「ご主人!気が済むなら、僕を殴ってください。」
その言葉が終わると同時くらいに、私は身を乗り出して
男の頬あたりを横から右手の拳をねじりこんでいた。
一瞬の出来事。
座っていた椅子から転げ、店のカウンターまで男は転んだ。
店のマスターも驚いたようで奥から飛んできた。
「すみません、」男は血を吐きながら半分泣いているようだ。
ま、いっか。
なぜか、他の客を見ながらそう思った。
ひとりでそのまま無言で店を出た。
あとのことは知らない。
マスター御免。
私は妻と別れた。
自由に生きている
息子は心の支えだ。
ただいつ別れてもいい、40代の愛人はいる。