隣室に越してきた男が、挨拶に来た。三ヵ月後に結婚式。現在は遠距離婚約
で、月に一度も逢えないという。その夜から、隣室との間にある押入れの襖を
開けて、毎晩女房と抱き合うことにした。たぶん隣では、境の壁に耳をつけ
て、我々の喘ぎ声を必死に聞いているであろう。
10日ほど過ぎたとき、仕事の途中でアパートに戻った。女房は留守にして
いる。買い物かと思い、シャワーを浴びようとバスルームに入った。バスルー
ムは壁一枚で隣り合わせ。隣の男の婚約者が、来ているのだろうか。男女の秘
めやかな喘ぎ声が聞こえてきた。思わず壁に耳を近づける。バックで責めてい
るらしい。
「そう、そうして。」二人とも、まだ慣れていないのか、互いに気持ちよくな
る体位や愛撫の情報を交換しているようだ。「後ろから入れられて、乳房を同
時に嬲られると、私、ものすごく乱れるの。」と女が喘ぎ喘ぎ言っている。
「こうか?こうか?。」男が聞きながら腰を使い、乳房を鷲掴みにしたよう
だ。
女のヨガリ声がますます大きくなった。後から入れられ、乳房を責められる
のが好きだなんて、まるで俺の女房みたい。そういえば、声も似ている。きっ
と俺の女房のように好い女だな、などと思った。やがて隣室の二人はバスルー
ムを出、今度は部屋で絡み合い始めた。でも押入れの襖を閉めているようで、
喘ぎの声はかすかである。あまりよく聞こえない。
やがて隣室の玄関のドアが開き、女が帰るようだ。別れの言葉が時々途切れ
るのは、キスでもしているのだろう。どんな女か、覗いてやろうと俺も玄関へ
急いだ。サンダルを突っかけ、玄関ドアを開けようとしたとき、突然ドアが開
き、女房が現れた。俺がいるのでびっくりしている。あら、あなた。女房はワ
ザとの様に大きな声を出した。見送りに出ていたのであろう隣室の男が、あわ
ててドアを閉める音が聞こえた。
ひょっとして今まで隣にいた女は、女房ではなかろうか。毎晩俺たちの喘ぎ
声を聞かされた男が、女房を引き込んで、生理的欲求の解消しているのでは?
女房に問いただしても、買い物から帰ってきたばかりで、隣のことは何も知ら
ない、と言い張るばかり。もっと落ち着いて、証拠を掴んでから騒げば、と思
ったが、後の祭りである。疑問は広がるばかりである。