あの、貞淑な妻が、他の男に抱かれ、身悶えしている姿を、まさか目の前に見せつけられるなど、思いもよりませんでした。中間管理職の、取締役目前といわれている私は、家族のために一生懸命働いていました。家庭菜園つきの家を、通勤時間を犠牲にして郊外に求め、毎日電車に乗るだけで一時間半、往復三時間以上かけて通勤しています。朝は6時半に家を出、夜はたいてい夜の11時に家につければいいほうでした。
今日は、年に一回あるかないかの、接待も無ければ部下との付き合いも断り、久しぶりに夕方、家へ帰ることができました。鍵のかかった玄関を開け、そっと入ると、家の中は、なんとなくシンとしています。いつもなら、ただいまの声をかけるまでも無く、リビングから迎えに出てくる、妻の姿も気配もありません。皆出かけているのかな、と考えた途端、二階からかすかに、妻の、あのときの喘ぎ声が聞こえてきました。
妻が浮気をしている。しかもホテルなどではなく自分の家に男を引っ張り込んで、と思いました。でも一方で、何かの間違いだとも、思いました。事実を確認すべく、そっと二階に上がります。階段突き当たり、息子の部屋から、若い男と、妻のひそやかなうめき声が聞こえてきます。部屋の前をそっと、そのままベランダへ抜け、カーテンの隙間から、息子の部屋を覗いてみました。
妻が男の身体にまたがり、腰を揺らしています。前かがみになり、少し垂れ気味の妻の乳房を下から掬い上げるように持ち上げ、大きく膨らんだ乳房をわしづかみにしている男は、なんと、まぎれもなく私の息子でした。息子は、時々乳房を揉む手を、妻の背中や腹部に回して愛撫しています。そして、つながっている股間に手を伸ばしたときは、妻のクリトリスを愛撫しているのでしょうか、妻の喘ぎ声が、ガラス戸越しに、かすかですがはっきりと聞こえてきます。そのときは、妻の腰はぴったりと息子の股間に押し付けられ、耐え切れぬほどの快感に浸っている様子が、よく判りました。
どうすることもできず、そっとその場を離れ、駅前に戻りました。普段はよりもしない小さな飲み屋に入りました。カウンターはすでに常連でいっぱい。あいている隅のテーブルに一人ですわり、愚痴る相手もいないまま、ノートパソコンにこの愚痴話を打ち込んでいます。息子と楽しむ妻に怒りを感じるより、こうなるまで妻を放りっぱなしにして置いた自分に呆れています。
確かに今まで、長いこと女房をほったらかしにしていました。たまに妻を求めるのは、明日に備えて、熟睡しておきたいときだけ。妻に口でまず股間を硬くしてもらい、それから、妻の身体に入ります。自分は軽く腰を回すだけ。妻は膣を適度にきつく締めながら、腰の突き上げを繰り返してくれます。その腰の突き上げで、ペニスがまるでしごかれるように刺激されます。最後の瞬間を迎える直前、妻は腰を突き上げたまま、膣の奥をキュッと締め、小さく激しく腰を回してくれます。膣壺にくわえ込まれ、もみくちゃにされた亀頭は、その快感に堪えきれず、自分でも思いがけないほど少量の精液を、それでも激しく射精します。
その後の、ペニスを襲う満足感とけだるさが、身体全体に広がり、眠りを誘い、翌朝の爽やかな目覚めをもたらしてくれていました。その貴重な妻が、たとえ息子とはいえ、他の男の身体を、あんなにも喜んでいる、ということは、その現場を見た後でも、でもなかなか信じきれず、受け入れがたいものでした。でも、いつから息子と、という疑問には、思い当たるところがあります。若いときはいざ知らず、この頃は妻の身体を求める時は、まず、妻が口で私のペニスを元気付け、その間に私が指で、妻のヴァギナの潤いを誘うということが、どうしても必要になっていました。射精してすぐに眠りたい私にとっては、面倒といえば面倒な作業時間でした。
でも、昨年の夏ごろから、妻が私の身体を硬くしてくれさえすれば、すぐにでも挿入できるくらい、妻の身体が潤いやすくなっていたのです。多分、その頃から妻は、息子を喜ばせ、同時に息子から歓びをもらい、潤いやすい身体になっていったのだと思います。そのため、私も妻を誘いやすく、妻の体を求め、満足する回数が、そのころから増えていたことに気が付きました。息子のおかげで、妻の好ましい身体を抱く機会が増えていたわけです。
他の男ではなく、自分の分身である息子が、妻の相手をしている。他の男に妻が走るよりは、ずっとましな事態ではないか。そう思うと、やっと落ち着いてきました。いつもの電車がホームに入りました。駅から出てくる乗客に混じり、私も家へ向かいましょう。
追記
玄関の鍵をそっと開けると、湯上りの妻が、その音をきいていそいそと玄関に迎えに来てくれました。いつもどおりです。息子は二階でシンとしています。これもいつもどおりです。そっと妻を抱き寄せると、石鹸のいいにおいが妻の身体から匂い立ち、息子の匂いはぜんぜんしません。これもいつもどおりでした。
おまけに今日は、駅前の飲み屋でゆっくりしたせいか、気持ちにも身体にも何か余裕がありました。妻もそれを感じたのでしょうか。股間にそっと手を当ててきます。息子のことでもやもやしていたのに、股間が膨らんできました。少し前まで、息子を抱いていたその身体を、私も抱いてやりました。今までの使用感と、特に変わりはありません。今までどおりです。息子が結婚するまで、この平和が続くことでしょう。