嫁は結婚する前、アパートの近くにある喫茶店のマスターと私を、ふたまたに掛けていた。今になって考えると、俺と結婚したのは、マスターが単に妻子持ちで、一緒になれないと判断したためかもしれない。付き合って半年、4度目にラブホテルへ行った時、俺は嫁にプロポーズした。「他に好きな人がいてるねん」それが嫁の返事だった。マスターとの関係をその時初めて聞かされた。マスターは遊び人らしく、他に何人も女がいるらしかった。俺とのセックスは、マスターへの面当てに過ぎないようだった。「俺のこと、そのマスターも知っているのか?」「知ってるわ…」嫁は頷いた。白状するたびに濃厚な激しいセックスをされてしまい、別れられなくなると、悲しそうな顔をして言った。今のような時代のことだから、26で結婚するまで、嫁が3、4人の男と関係していたとしても別に不思議ではない。しかし、プロポーズを断られた時点で、嫁のことは諦めるべきだった。「マスターとの付き合いを認めてくれるなら、このまま、あんたと付き合ってもいいよ」俺にとって風俗以外の女は、嫁が初めてだった。俺は振られるよりは、ましだど思った。嫁を忘れることは出来そうになかった。それから一年半後、俺達は結婚した。結婚後、マスターのことは、夫婦の間で禁句になった。昨年の夏、子供連れの小豆島のキャンプにマスターが参加していたこと知った。「向こうでマスターと偶然に会ってんけど、バーベキューの材料を差し入れてくれて助かったわ。」妻の女友達が、俺の前でうっかり口をすべらせたのだ。そんな偶然などある筈がない。女友達が帰ったあと、嫁を問い詰めた。「あほなこと言わんといて、浮気する気やったら、子供なんか連れて行く訳ないでしょ。」「子供なんか、なんかとは何だ!」結婚以来、初めて嫁を叩いた。「付き合い認めてくれたから、結婚したやないの!今更、焼き餅やかんといてよ。」「お前、ずっと関係を続けていたのか!」「子供が出来てからは、兄妹みたいな関係よ」嫁の言葉を信じたい…でも、時々、嫁にマスターの血液型を聞きたい衝動に駈られる。聞かないほうがいいのだろうか?