私が怒鳴っている間男は土下座で誤っていました。妻はパニックを起こしている様で泣きながら支離滅裂な言い訳をしていました。今まで生きて来てこれほどの怒り、屈辱、惨めさは経験した事がありません。それでもひとしきり怒鳴って、ある程度私も理性を取り戻しました。
男はひたすら私に許しを乞うていました。私は「いつまでそんな格好でいる気だ、また続きをする気か?」と言い捨てると、男はなおも謝りながらてきぱきと洋服を着はじめました。妻もまくし立てる様に言い訳や謝罪の言葉を言っていましたが、全く耳を貸さない私に気付いたのか、観念した様で、のろのろと服をきておりました。
「着終わったらリビングに来い」二人に告げ私はリビングへ向かいました。男も妻もか細く「ハイ」と言った様な気がしました。
たまらなくタバコが吸いたくなり、立て続けに3本を灰にした所で、二人はリビングに入って来ました。男が前、それに妻が続きます。見ようによっては男が妻をかばっている様にも見えます。そんな二人の姿に更なる怒りを覚えましたがなんとかこらえ、ダイニングのテーブルに二人を着かせました。
テーブルの上には二人楽しく食事をした残骸が残っています。私が食器を睨んでいるのに気付いた妻は慌てて片付けようとしましたが、私の手が一瞬早く食器をなぎ払いました。大きな音と共に食器は砕け飛びました。私にとって、その食器は憎悪の対象以外の何ものでもありませんでした。
妻は泣きながら食器を片付けています。それを横目に見ながら、私は男に「分かる様に説明してくれ」と言いそれと共に身分証の提示を求めました。
男は渋々免許証を出しました。裕二23才市内在住。世に言うイケ面の類だと思う。第一印象で彼の事を悪く評価する人は少ないでしょう。「で、どうなんだ?」裕二に回答を求めるも謝罪の言葉だけでらちが開かず、再び私は苛立ち始めました。それを察した妻が割って入り、そうなった訳を話始めました。裕二は娘の通うミニバスクラブのコーチで、今年の夏の合宿に手伝いで着いて行った妻に宴会の後に言い寄ってきた…寂しさもあって優しくされつい許してしまった…「でも信じて片時もあなたを忘れた事はなかった、本当に愛しているのはあなただけです」そう言って妻は俯き泣き始めました。愛しい妻の告白ですが今は全く意味を成しません。逆に怒りさえ感じました。再度裕二に目を戻し「間違いないか?」と問うと、裕二は力無く「ハイ」と答えました。