亜希子は美しい女だった。
出会ったのは23年前、俺はセリカ(ZZT231)、亜希子はレビン(AE111)に乗ってて、トヨタカローラ店で出会った。
亜希子22歳、俺25歳だった。
じっと見つめ合ったのはお互いの車、どちらもスーパーストラットサス仕様で、亜希子が、
「200㏄の差って、大きいんだろうなあ…」
「乗ってみるかい?」
これが初めての会話だった。
亜希子との初めてのベッドインは、初ドライブから1カ月、亜希子のレビンで峠を抜けて、遠くに海を見下ろすラブホに入った。
まろやかなラインのイイ身体だった。
キスの舌使いで、処女ではないと感じた。
深く切れ込む裂け目は赤らんで、既に期待に濡れていた。
クンニに漏らした甘い吐息は、22歳のそれじゃなかった。
フェラの上手さも22歳とは思えなかった。
亜希子は生挿入を拒まなかった。
カリに絡まるねっとり感が心地いいマンコだった。
くねらせる腰付きは、女の悦びを知り尽くした熟女並みの色気だった。
美しい女の淫らな喘ぎは、俺を狂わせた。
亜希子は、浴びた精液を嬉しそうに手で拭い、匂いを嗅いで微笑んだ。
そして
「いつかは中に…下さいね…」
と言った。
俺27歳、亜希子24歳で結婚した。
最初の1年は中出しせず、毎晩のようにセックスを楽しんだ。
結婚2年目から子作りを始めたが、結婚3年が過ぎても亜希子が妊娠することが無かった。
お絵に問題があるのかと思い、亜希子に内緒で病院に行ったが、異常はなかった。
俺が病院に行ったことをどこかで悟った亜希子が、俺の前に正座して、離婚届を出してきた。
「ごめんなさい…私、短大時代に、妻子ある人と不倫して、妊娠して…堕ろしたの…」だから、私のせいなんだ。あなたは、私と別れて、新しい家庭を築いて欲しい…」
別れ話をしているとき、テレビではNHKで「みんなのうた」をやっていた。
♪ サヨナラは悲しい言葉じゃない
♪ それぞれの夢へと僕らを繋ぐエール
♪ 共に過ごした日々を胸に抱いて
♪ 飛び立つよ独りで つぎの空へ
俺と亜希子の頬を涙が伝った。
共に暮らした3年間が、走馬灯のように頭を巡っていた。
義父母にも謝られて、離婚に応じた。
「ふしだらな娘のせいで、君の貴重な3年間を無駄にして済まなかった…」
「さよなら…そして、ごめんなさい…素敵な人と、子供、作ってね…」
「無念だ…亜希子とはずっと手を繋いで歩いていきたかった…さよなら…亜希子と過ごした3年間は、俺の宝物だ。胸に抱いて生きていくよ…」
俺と亜希子の3年間が幕を下ろした。
俺はその後、親戚の勧めで見合いして、33歳で28歳の女性と再婚し、女の子が生まれた。
俺は6MTのセリカを降りて、ATのミニバンに乗った。
妻とは、亜希子の時のような、萌えるような恋愛ではなかったが、ほのぼのとした思いやりをやり取りする夫婦愛だった。
今年、再婚して11年、娘は小学3年生になった。
亜希子の事は忘れたわけじゃないが、いきものがかりのエールを耳にすると、亜希子との別れを思い出して胸が軋んだ。
先日、出張から帰って駅に着き、荷物がたくさんあったからタクシーに乗った。
俺が乗ったタクシーは最近あまり見かけなくなったクラウンコンフォートで、しかもMTだった。
荷物を並べながら、
「MTのタクシーなんて、珍しいですね。」
と言って顔を挙げたら、ドライバーが女性で、ルームミラー越しに、
「ご無沙汰してます…」
ふと乗務員名を見たら…元妻の亜希子だった。
「亜希子…お前、タクシードライバーになってたのか…」
「私には天職みたい…どちらまで?」
行先を聞くと、華麗なクラッチワークで加速していった。
目的地に着くと、
「良いところにお住まいね。お子さん、できたの?」
「ああ…おかげさまで女の子が一人…」
「良かった…もしあなたが子供に恵まれていなかったら、ずっと十字架を背負って生きていかなくちゃならなかったわ…安心した…それじゃあ、ありがとうございました。」
亜希子が走り去っていった。
美しく年を重ねていた亜希子に、今はどうしているのかを尋ねるのが怖くて、訊けなかった。
「亜希子…お前は幸せなのかい…さよなら…」
走り去るタクシーに向けて呟いたら、いきものがかりのエールが聞こえたような気がした。
「あれだけ綺麗なんだ…不幸なはずはないな…」
俺は、41歳の亜希子の幸せを信じて、妻の待つ家に入った。
こんな幸せを亜希子と育むはずだった…と思ったが、小走りで迎えに出た妻を見て、やっぱリ妻とじゃないとこの幸せは無かったと感じた。
そうだ、サヨナラは悲しい言葉じゃなくて、それぞれの幸せへと俺らを繋ぐエールなんだ。
亜希子と共に過ごした日々を胸に抱いて、新しい幸せを見つけに飛び立ったんだ。
そう思い直して、改めて、亜希子にお別れを言った。