腐れ縁のような長い付き合いを経て、妻の麻美(あさみ)と結婚したのは五年前。
勿論、大切な妻でありパートナーではあるが、
高校時代からお互いを知り尽くした関係は、
新婚当初から夫婦というより、すでに家族という感覚になっていた。
それはつまり、妻に対しての性的な興味の減退を意味し、
夫婦の営みの減少に繋がっていく。
決して女性として魅力が無いとは思わない。
飛び抜けた美人ではないが、
世の女性の平均レベルではあると思う。
長く接客業をしていた事もあり、
身嗜みや立ち居振る舞いには気を使っているし、
33歳という年齢相応のファッションセンスも備えてはいる。
ただどうしても、結婚してからの営みはその回数を減らしていった。
私自身の性欲が減退したというわけでも無く、
アダルトサイトなどは頻繁に覗いていた。
そんな中で、私はそれまで知らなかった世界に踏み込む事になる。
「寝取られ」
言葉自体は初めて聞くものでは無かった。
ただ、私が抱いていたイメージとは少し違った。
例えば単身赴任で妻と離れるうち、
間男に妻を奪われる…
そんなイメージ。
それも無くはないが、私が知った寝取られというのは、
夫婦了解の行為や、妻は未承諾でも旦那が自分で仕組んだもの…
プレイとしての寝取られであった。
沢山の体験談を読んだ。
始めは純粋に興奮し、次第に話の中の女性を妻と重ねて興奮するようになる。
実際に妻を他人に抱かせたらどんなだろう?
嫉妬でおかしくなってしまうかも…
単純に考えて、妻を他人に抱かれるなんて嫌じゃないか…
友人や同僚、上司など、色々なパターンを妄想してみた。
異常なくらい、興奮した。
妄想の中で、妻は色々な男に抱かれる。
私しか知らないはずの妻の裸体。
小振りな乳房。
少し濃いめの陰毛。
全て晒しながら抱かれる。
妄想だけで抑えるのは限界があった。
妻になんと話せば良いのか…
説得の仕方すらわからない。
性に関して言えば、好奇心や冒険心が強いとは言えない妻。
保守的…
良く言えば身持ちは堅い女。
そんな妻を説得できる自信は無かった。
ある日、試しに言ってみた。
「麻美さ、俺以外の男とエッチしたいと思う?」
「思わない。」
予想通りの返答だった。
ただ、話を繋げる事に成功した。
「なんでそんな事聞くの?」
「いや…」
「そんなの嫉妬するでしょ?普通。」
「そりゃそうなんだけど…実はさ…」
私はあるがままを話してみた。
良くも悪くも、長い間供に過ごしてきた結果の、
信頼関係というのか…
それは何を言っても揺るぎは無かった。
妻は少し真剣な表情で聞いていた。
「言ってる事はなんとなく理解できた。
アツ(私の呼び名)がそういう願望を持ってるのもわかった…
けど、何とも言えないよ。とりあえず、話だけ聞いたって事で…ね。」
どちらかと言えば、拒否に近いようなニュアンスの言葉が返ってくる。
当然の反応ではあった。
それから少しだけ変わった事。
妻との営みが増えた。
それは、私が求めての結果であった。
その度に、妻を抱きながら妄想をした。
そんなある日。
サイトの掲示板から、一人の男と知り合う。
「黒田」と名乗る男。
まるで友人のように、頻繁にメールを交わすようになった。
その時点では、事実なのか作り話なのかわからなかったが、
黒田さんは沢山の寝取り体験談を話してくれた。
時には動画や画像を添えてもくれた。
勿論、それを100%信じていたわけではないが。
ただ、私は黒田さんに興味を抱き、その世界に引き込まれていたように思う。
メールのやり取りは、電話での会話に発展し、
ついには直接会うにまで至った。
2008年秋の事。
電車で二時間。
住まいの離れた状況では、そうそう頻繁には会えないが、
その後さらに二回程会う事に。
三回目に会った日、黒田さんは一組のカップルを連れて来た。
41歳の夫、39歳の妻という夫婦。
そのまま場所を移動し、私は妄想と文章でしか知らなかった、
「寝取られ」というプレイを目の当たりにした。
奥さんは私と旦那さんが見ている前で、
黒田さんに抱かれていた。
それは恋人とも夫婦とも違う交わり方。
雄と雌…
もっと言えば、支配者と従属する者…
そんな印象を受けた。
そんな奥さんを見つめる旦那さんの表情は、
言い知れぬ恍惚としたものの反面、
強い嫉妬も抱いているような、
混沌としたものだった。
奥さんは、旦那さんを意識しているのか、
歯を食いしばるようにしながら、
声を殺そうとする。
他人のセックスを見る事自体、
初めての経験ではあった。
この日の体験は、私を寝取られと、そして黒田さんという存在の虜にした。
私は決意を強くし、黒田さんの敷いた道筋を突き進む事になる。
毎日妄想をした。
浮かんで来るのは、黒田さんに抱かれるあの奥さんと、
それを見つめる旦那さん。
その配役は、妻と私に変わっていく。
妻を騙す方法も無いわけでは無かった。
黒田さんは、経験からいくつものパターンと、妻を誘い込む方法を話してくれた。
それでも、長い間連れ添っている妻を、
騙す事はできずにいた。
時間を重ね、必死に説得を試みる。
やがて妻を黒田さんに会わせるところまでこじつけた。
当然、通常の意味での会うという事。
食事をし、沢山の話をする時間を作った。
社交性のある妻は、黒田さんとの会話を純粋に楽しみ、
受け入れていた。
黒田さんも、まるで普通の友人のように妻と接した。
半年の間に四回、そんな時間を持った。
四回目の日、黒田さんは初めて妻の身体に触れた。
決してセックスのためでは無く、
黒田さんは妻にマッサージを施しただけだった。
シャツ越しの背中、腕…
パンスト越しの内腿…
それでも、妻が私以外の男に身体を触れさせた瞬間であり、
黒田さんが妻に一歩踏み込んだ瞬間でもあった。
私はその様子を見ているだけで興奮したのを覚えている。
帰宅する車の中、
「正直、あれだけでも興奮したよ。」
私はそう妻に言った。
「マッサージしてもらっただけじゃん…」
外を見つめたまま、妻は少し笑ってそう答えた。
「気持ち良かった?」
「何が?」
「何がって…マッサージがだよ。」
「あっ…あぁ、気持ち良かったよ。」
妻はずっと後になって、その日、マッサージで触れられただけで、
濡らしていた事を告白した。
つづく