あれ以来、寝付けない夜が多くなった。
傍らの「女」は満ち足りたような寝息を立てていた。
規則的なリズムが、寝付かれない耳に障った。
あの日以来、「女」の変化が目につくようになった。
主張や帰宅時刻を細かく訊くようになった。
クローゼットの収納たんすに、いつの間にか鍵が掛けられた。
「奥さんまた駅にいましたよ」、部下の美穂が意味ありげにウィンクした。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
廊下に着古しのニッカボッカが投げ捨てられてあった。
茶色のペンキがべっとり付着し、片脚は半分まくれて裏地を見せていた。
先を急ぐ余り、慌てて脱ぎ捨てたのが見て取れた。
奥のリビングから、あえぎ混じりのうめき声がして、一瞬立ちすくんだ。
縞のトランクスを追うように引き裂かれた花柄のブラウスがあった。
リビングの絨毯の端に、水色のブラと薄汚れたランニングシャツが見えた。
忍び足を止め、身を屈めて手を床に着いた。
そっと首を巡らしてリビングの中を覗った。
二人は行為に没頭していた。
逞しい肉が盛り上がったケツの間に、アレが覗いていた。
異様な太さに肝をつぶした。
こんなモノがあるのか。
男の腰は、奥行を測るかのようにユックリと往復していた。
一杯に押し込むと、大きく「の」を描いた。
左に寄って往復し、右にずらしてはまた往復した。
男は、豊かな乳房を揉みしだき、吸い、首筋や腋の下を舐め回していた。
こいつは誰なんだ。何時からまぐわってるんだ。
妻のメイクは整ってはいたが、髪留めが外れ、髪が拡がっていた。
水色のソフトビスチェのフリルと紐が、白い腹に纏わり付いていた。
引き裂かれた生地が、横に細長く薄く延びていた。
男に突かれるたびに、白い脚が宙を払うように大きく揺れた。
妻の手が男の広い背中に伸び、絡みついた。
右足の先端に水色のショーツがまとわり着いていた。
男の腰がいくらか速くなった。
妻は、半ば髪に埋もれた顔を左右に振り、逞しいケツに手を伸ばした。
一瞬頭をもたげ、腰を浮かし、そして大きくのけぞった。
はらわたからえぐり出すような声が出た。
あえぎ、唸り、耐え切れぬようにむせび泣いた。
「どこが気持ちいい?・・
どこだヨォー・・・
とめていいのか?・・」
男の腰がピタッと止まった。
暫く間を置いて、男の腰が急に動いた。
妻が大きな声を上げた。
また男の腰が止まった。
そのうち男は全く動きを止めた。
妻は腰を左右によじり始めた。
「ハハハ、おねだりしてんのか・・
どこが気持ちいいんだ?」
男がささやいた。
妻の口から、聞いた事もない甘え声が洩れた。
「とめないで・・・いっぱい、いっぱいして」
とささやくと、男の首に両脚を絡め、腰を上下に揺すり始めた。
「お願い、とめないで・・とめちゃいや・・オマンコ気持ちいい」
私は耳目を疑った。
下ネタですら顔をそむける妻の口から、あんな言葉が出るのか。
あんなこともするのか。
濡れて太い青筋が浮き出たアレには白濁液がまとわり付いていた。
穴がそれを呑み込むごとに中から多量の液が溢れ出た。
無数の泡が弾け、一本の筋となって臀部を伝い、滴り落ちた。
新たな白い筋が生まれて、支流を作った。
絨毯の上の溜まりが見る見る大きくなった。
髪は乱れ、顔や首に纏わりついていた。
口の周りに紅が滲み、男の肩にも薄い紅の跡が見えた。
男のケツがせわしく上下した。
まとわりつく穴の肉を引き出し、また押し込みながら際限なく往復した。
股と股、肉と肉がぶつかる鈍い音がだんだんと高く、大きくなった。
地震が来たかのように部屋が揺れた。
サイドボードのワイングラスがリンリンと風鈴のように音を立てた。
妻は上腕を男の首に回した。
せつなそうな目が快楽の極限を伝えていた。
男の目に同じものを読み取ると、上体を持ち上げ、男の舌を貪ぼった。
淫靡な香りが鼻を衝いた。
のけぞりながら妻が吼えた。
一滴残らず搾り取ろうとするかのように、太腿を絡めてケツを搾った。
男はたまらず一声うめくと割れ目に体重を預け、ピクリともしなくなった。
妻は厚い胸板につぶれた乳房をはみ出しながら、白目を剝いた。
全身に痙攣が走った。
獣のような唸り声がその震度を告げていた。
激しい息遣いが行為の深さを物語っていた。
男がユックリと上体を起こし、アレに手を添えて抜いた。
ぽっかり口を開けた穴から、精液は流れ出なかった。
飢えた子宮が、久しぶりの美味に狂喜して、一滴残らず飲み尽くしたのか。
男は妻に後ろを向くよう促した。
妻は胸を伏せ、尻だけ高く突き出した。
パックリ口を開けた割れ目が、もの欲しそうに濡れて光っていた。
「早く・・・お願い・・入れてください」
私が知る妻は、とうに姿を消していた。
男によって妻は完璧に殺された。
濡れそぼった割れ目を左右に振りながら、アレを欲しがる「女」がいた。
「どこに入れて欲しいんだ?」
男は会心の笑みを浮かべて、豊満な尻に両手をあてがった。
逞しいケツの間にドスンとアレがぶら下がった。
その偉容にまたしても度肝を抜かれた。
精子を直接子宮に注ぎ込むにはあり余る長さだ。
先端が大きくエラを張ったまま、いまだに戦闘態勢を崩していなかった。
先っぽから長い糸が引いて垂れた。
世の中にあんなモノがあっていいのか。
いつになく硬度を増していた下腹部のこわばりが一気に萎え始めた。
その場から逃げ出したくなった。
「女」の視線がアレに絡みつき、巨尻を揺らし、欲しがった。
アレによって、生まれ変わった「女」がそこにいた。
肉のぶつかる鈍い音がした途端、「女」が気を遣る声がした。
逃げるように玄関を出た。
庭の芝生の上にペンキ缶と溶剤のビンがあった。
見上げると真新しい茶色の雨樋が陽を浴びて輝いていた。
そういえば午後2時完工予定の業者が来るって言ってたっけ
虚ろにMACの前に立っている自分に気がついたとき、食欲は失せていた。
時計の針は午後3時を回っていた。