第七章 【 歪んだ愛情 】
呆けたようにベッドに投げ出した裸身 ・・
男の精が放たれてしまえば、茎を締めつけていた媚孔の収縮も少しずつ和らいできて、南さんが妻の背中を撫でながら言う。
「 ど ~ う ? よかった・・?」
「 う … ん、 いっぱい もらったわ … 」
「 こうして、たまに逢うのもいいでしょう?」
「 だって … そうねなんて、言えないでしょう? 」
妻が私の方を横目で見ながら応える。
私は二人の会話に気圧されて言葉を挟む余地がない。
やがて、ベッドで裸身を晒していた妻が濡れたところをティシュで拭い始めた。
流石に、だらしない姿をいつまでも夫の目に晒し続けるのは耐えられないのでしょう。
ようやく、妻が平静さを取り戻したようだ。
その後、身繕いを終えた妻がタオルとポーチを手にして浴室に入っていった。
体の奥に沁み込んだ交わりの痕跡を洗い流し、乱れた髪を湯上り化粧で整えるつもりだろう。
妻がお風呂からあがってくるまで、しばらくビールを飲みながら南さんと話をするが、先程 生々しい光景を見たせいか心が浮浮ついでいる。
「 見られちゃいましたね。恥ずかしいところ・・」
「 いや、誰だってそうですよ。きっと、理香さんも嬉しかったんじゃないですか?」
「 そうですかね? 何だか、バツが悪くて・・」
「 それを言ったら、奥さんなんて・・ もっと恥ずかしいところをあなたに見られているじゃないですか?
きっと、旦那さんが興奮しているのを見て嬉しかったと思いますよ。
ところで、こうして小野さんとご一緒するの、これで何回目ですかね ?」
「 もう、忘れましたよ。 何回もあり過ぎて・・ 多分、三回目ぐらいかな?」
「 でも、あなたと奥さんがするの・・ まだ、一度も見せてもらったことがないのですが・・ 」
「 貴方の後にですか? そりゃ、無理でしょう。 家内の方が白けてしまいますから。
私は、お土産をいただくだけで十分です」
こんなくだらない話をしているうちにも、はっきりさせておかねばならないことが一つある。
妻がお風呂から上がってきたらどうするか、この後のことが何も決まっていないのだ。
( もう十時半か? そのうち妻が風呂から戻ってくるだろうが、このままずっと三人一緒にここにいる訳にはいかない。
南さんにしてみれば、目障りな男の姿が消えた後 誰にも邪魔されずに人妻と二人思いきり・・今回の旅もそれが条件みたいなものだ )
戸籍から見れば理香は私の配偶者だが、彼女の体が誰の所有に帰するのかという問題になると、目下のところ 曖昧なものになっている。
つまり、私の方からすれば、南さんに対して妻を思いのまま自在に扱ってもらって構わないという暗黙の了承があり、
南さんの方も、それを私の好意として有難く思ってくれているからこそ、田舎の温泉くんだりまで 出向いてきてくれたのだ。
早く言えば、お互いのスタンスの中に、妻を貸す、借りるなんて意識はこれっぽっちもなく、口には出さないものの、
双方の合意の上で今の関係が成り立っているのです。
妻の方も、その辺りのスタンスがわかっているから、安心して彼に身を任せられるのでしょう。
あれこれ考えると、この後、妻を南さんに渡し、朝まで彼の部屋で過ごすことが妥当に思える。
さて、妻が浴室から戻ってきた。
浴衣に包まれているのでわからないが、多分・・ 今 身に着けている下着は、この前念入りに確かめたものに変わっているはずだ。
窓際の椅子に座り手鏡を見ながら髪を整えているが、先ほどのことが気恥ずかしいのか、こちらには寄ってこない・・
( ここから先、私は余り長く妻と関わらない方がよさそうだ。
久しぶりに愛しい男と情けを交わせたというのに、その余韻がまだ冷めやらぬうちに夫が割って入り、
あれこれ言うのでは弾んだ気持ちも萎んでしまうというものだ )
「 どうする? この後、俺は風呂に行くけど、ずっとここにいるか?」
やっかみ半分で妻に声をかけるが、南さんがすぐにフォローする。
「 それじゃ、可哀そうでしょう? せっかく遠出してきたのに・・
向こうの部屋にダブルベッドがありますから 」
「 行ってもいい … ?」
「 いいも何も・・ そうしたいんだろう?」
「ごめんね。 今夜だけ … 」
「 ドアが開くように入口にストッパーを掛けておきますから、いつ来てもいいですよ 」
この後、彼の部屋でどんな光景が繰り広げられるかは、言わずとも知れている。
多分、二人きりになれば、目障りな私が傍にいたせいでできなかったことを大っぴらにするに違いない。
( 仮に、私が彼と同じ立場だったとしても、他人妻を一晩思いのままにできる機会なんて滅多にあるものじゃない。
そうなると、彼女を受け身に回らせ、自分が命じるがまま操るのでは面白くない。
恐らく、淫らさ極まりない行為を彼女自身の意志でさせるだろう・・)
エレベーターで一階に降りながら私は一人ぼんやり、彼の背に腕を巻きつけながら
悦びに咽ぶ妻の姿を思い浮かべていた。
寝苦しい夜がどうにか過ぎて・・・ 気がつけば、時計の針はとっくに朝の六時を過ぎている。
急いで顔を洗い、南さんが泊っている新館の方へ向かう。
ドアをノックするが、中からの応答がない。
更に何回かノックをし、しばらく様子をうかがっていたが、中は静まり返ったままだ。
そうなると、それ以上しつこく開錠を催促する訳にはいかなくなってくる。
( この状況で考えられることと言えば、二人一緒にあの狭い浴場に向かったか、
それとも・・別れを惜しむ行為の真最中なのか そのどちらかしか考えられない )
そう思うと何年か前、朝方に妻と南さんがこもっている部屋を訪れ、固唾を飲みながら二人の営みを見守っていたことを思い出す。
あの時の妻は、南さんの愛を受け取るのに夢中で、私がドアを開けたのに気づかないほどだった。
今、この瞬間だって、扉一つ隔てた向こう側で妻が悦びに咽んでいることだって充分にあり得る・・
昨日お邪魔したこの部屋で・・ 理香が南さんの背中を掻き抱きながら睦み合っているとしても不思議ではない。
【画像⑬】
でも、思い直して考える・・
仮に、後者の方であったとしても、当然 妻もそれを望んで受け入れたのだろうから
私からどうこう言えるような立場でもない。
要するに、あれこれ詮索して思い悩んでみても始まらないのだ。
私は、それ以上待つことを諦めて自室へ戻った。
それから一時間ばかり経った頃、私の部屋のドアをノックする音が聞こえたが、叩き方で妻であることはすぐにわかった。
急いでドアを開けると、妻がドアの前に佇んでいる。
傍に南さんの姿はない。
「 どうした? 一人で・・ 何か 変わったことでもあったのか?」
「 だいじょうぶ。 何もなかったわ 」
妻は、恥ずかしげに下を向きながら言った。
「体調はどうだ? ぐっすり、眠れたか? 」
「 ありがとう。元気よ 」
「 真っすぐ 帰れそうか?」
「 何とか … ね。 でも、もう 終わったわ 」
さらりと言った妻のその言葉が 如何様にも解釈できそうで判断に迷ってしまう。
南さんを置いて、一人でこの部屋にやってくる淋しさがそんな言葉を言わせるのか?
それとも、情事の最中に私が来て・・ すぐさま返事ができなかったことを私に詫びたいのか?・・
「 彼の姿が見えないようだが・・」
「 あなたに会うのが照れくさいから… と言って、さっき帰ったわ」
「そうか? 何か、言伝はなかった?」
「 色々、お世話になったって。
それから、これ、あなたへだって… カブ漬けのお土産もいただいたわ 」
「 こんなところじゃ人目につくから、まぁ、部屋に入れよ 」
「 一人にさせてごめんね。眠れなかったでしょう …」
「 いいさ。 おまえの元気な顔を見れれば … お互いに 納得してしたことなんだから 」
「 これから しばらく、また二人だけになるね 」
「 そうだな。 しばらくはそうするか 」
部屋に入って、妻から渡されたのは薄っぺらの封筒・・ もちろん、中に何が入っているのかはわかっている。
妻の方も、昨夜撮られた自分の姿がその中に収められていることぐらいは承知の上だろう。
( 封筒の中身を知っていながらそれを渡すということは、昨夜の交わりの一部始終を私に見られても構わないということだ。
それほど 妻に信頼されていること自体は嬉しいが、やはり証拠物件をあからさまに手渡されると複雑な心境になる。
多分、私の目の前では大っぴらにできなかったことをしたはずだが、果たして妻が・・どんな格好で交わり、どんな仕草をみせたのか?)
そんな思いがチラっと頭を過るが、チップに移っている動画は家に帰ってからゆっくり見ることにして、妻を置き去りにして帰った彼の気持ちもよくわかる。
一晩愉しんで、当初の目的を達したとなると、そのままずるずると三人一緒の気まずい朝食をとるくらいなら、コンビニにでも立ち寄った方がいい。
その後、温泉帰りのかったるい気分を引きずりながら 近くの観光スポットを二箇所ほど巡ったが、寝不足の上、胸の中にもやもやした思いが鬱積していて、
どこをどう廻ったのかほとんど覚えていない。
(第八章に続く)