第三章 【 抱かれる前夜 】
妻が彼と交わる日 ・・ その日がとうとう明日に迫ってきたが、今日に至るまでこの日が来るのがとても長く感じられた。
多分、これまでそんなに仕事に追われることもなく怠惰な日々を過ごしていたので、余計に長く感じられたのかもしれない。
いよいよ、明日は久しぶりに・・ 妻が私の前で彼と結ばれるのだ。
その前日、妻はいつもより早く帰って来た。
自室で何やらゴソゴソやっていたが、おそらく明日身に着けていく下着でも探しているのだろう。
「 ちょっと、いい ? ねぇ、明日、四時までには旅館に着いてほしいって … 」
もうすぐ夕食という時刻になって、妻が私の顔を見るなりつぶやいた。
「そうか? 頃合いの時間だな 」
目下、妻と南さんの関係は、私宛ての連絡まで彼女のメールで済ますようなものになっている。
妻にとっては、いつ切り出そうか迷っていた案件なのだろうが、明日のことが気になっている点では私も同じだ。
( たしか、待ち合わせの場所は富山の鄙びた温泉だったから、車を飛ばせばおよそ三時間か?
昼過ぎに出発しても遅くないだろう ・・)
「 それじゃ、お昼を食べてから出かけることにするか ? 手荷物の準備も終わったんだろう?」
「 一通りはね。 あなたも落ち着かないんでしょう? 何だかそわそわして… 」
「 そうだな。 ここのところずっと、ご無沙汰だったから。
おまえも明日は、南さんの前でどう振る舞えばいいのか・・俺が困るような真似はしないでくれよ 」
「 心配性ね。 だいじょうぶ。 わかってる … 」
「 どうやら心づもりも万全なようだが、俺の前で彼とじゃれ合うのも勘弁してくれよ 」
「 そうね。 今更、どきどきってこともない分、返って気をつけなくちゃ。
とにかく、あなたの期待外れにならないようにするわ 」
こんな軽口を言いながら、早目の夕食が終わるとすぐに洗濯機が回り、お風呂のお湯が落ちる音がする。
お互いこんな時はこまごましたことは早く済ませて、一人ぼんやりと明日のことに思いを馳せるのがいいのかもしれません。
かく言う私は、早くも忙しそうに立ち回る妻の後ろ姿を姦視している。
スカートのそこと知れた辺りに目を遣りながら、脳裏に思い浮かべるのは南さんのあの剛茎。
それが 妻の下半身に際どく迫っていって・・ 目を細めながらその瞬間を待ち受ける理香・・
一旦、こんな光景を思い描いてしまうと、今夜はすんなりと眠れそうにありません。
「 そろそろ、お風呂が沸いた頃だが ・・ なあ、久しぶりに一緒に入らないか ?」
これまで、妻と一緒に風呂に入ったことが無い訳ではありませんが、大概の場合、ふざけ半分で、
浴室の中でしっとり会話を楽しむことが目当てでした。
しかし、今夜は明日を前に・・ 久しぶりに妻の柔肌をこの手で確かめたい。
このまま、じっと何もせずに朝を迎えることは耐えられそうになかったのです。
「 う~ん ? じゃ、先に入ってて… 」
妻は、いつもに似合わぬ私の申し出に気軽に応じてくれたが、きっと私の姿の中に・・
自分の胸内と同じような心の揺れを感じたのかもしれません。
私は浴槽にゆったりと身を沈めながら、妻が入って来るのを待っている。
最後に妻の恥態を目にしたのはおよそ二年前 ・・
( 明日は久しぶりに私の目の前で、妻が欲しがっているものの全てを彼によって与えられるのだ )
妄想が膨らむと胸の鼓動が高まり、お湯の中に揺らいでいたものが次第に硬くなってくる。
「 ごめんね。 待たせちゃって … 」
妻がバスルームに入ってきた。
首根っこからシャワーをかけると無数の滴が肌を伝って下へ流れ落ち、陰毛に集まった滴がポタポタこぼれ落ちる・・
「 久しぶりに 洗ってあげようか 」
ボディソープを手のひらにとり、腰の辺りから脇の下へ ・・彼女の体を撫で回すように塗りつけていく。
両の掌が泡立って妻の体を包み込むように這いずると、彼女の息遣いが心持ち大きくなっていく。
目の前に、妻の濡れそぼった翳りがある。
( 明日は、ここを開いて南さんに愛してもらうのか・・
やがて、その時がくれば、狭い浴室の中で今日と同じような愛撫を加えるのは私ではないのだ・・ )
【画像⑥】
頭に思い浮かべる光景が、次から次へ流れていく ・・
( こみ上げる悦びを抑えきれず、彼の体にすがりつき、身悶える妻・・
そして、極めつけの快楽に身を震わせながら、精を走らせる彼・・)
「 ね ぇ、私が愛されるところ … そんなに見たいの ?」
私が黙りこくっているせいか、妻が私に問いかけてきた。
身体を伝う手指の感触はもちろん、私の下腹部の形状を見れば、今 私がどんなことを思っているのかわかるのだろう。
「 ああ、見たいさ。 おまえがどうなるか・・ 」
「 そ~ う ? じゃ、そこに座って… 」
自分の体に付いた泡をシャワーで流した後、妻が私の前にかがみこみ膝立ちの姿勢になった。
きっと、夫が妄想を膨らませ、それを持て余していることに気付いたのでしょう。
それに多分、これまでの経験から・・ 私が今夜 彼女を求めようとしないこともわかっているに違いありません。
きっと妻も、そんな状態にある私を余所に、自分だけ早めに布団に入るというのは気が引けるのでしょう。
両手で男の徴を愛おしむように包みながら、窄めた唇を激しく出し入れする。
ずっと遡って、その昔 ・・ 妻は口淫が苦手だったことを思い出す。
そんなに上手じゃないせいか、なかなか精が遡る兆しがやってこないが、それが返って妻への愛しさを募らせる。
「 ごめんね 」とつぶやいた妻が愛撫の仕方を口から手に代えると、それまでとは違う感覚に包まれ、
次第に、心地よいものに変わっていく。
私はひたすらそれに耐え 寸秒でも長くこの悦楽が続くことを願うが、積もりに積もった快感が臨界に達すると、
我慢できずに叫んでしまう。
「 ああ・・理香・・!」
その言葉を聞いた妻が一層激しく手を動かすと、下肢を極度にこわばらせ 泡まみれのものを反り返らせてしまう。
間髪を入れず、とびっきりの快感を伴った白い奔走りが彼女の胸元に走る!
彼女の夫であることを裏付ける今夜限りの証 ・・ それがゆっくりと彼女の胸元から垂れ落ちていく。
それを手のひらにとって眺めている妻を見ると無性に愛おしくなり、委細構わず
ぎゅっと抱きしめてしまう。
口から出るどの言葉よりも、そうすることが最も彼女に伝えたかった私の思いだったのです。
部屋に戻って・・ 妻の布団と私のそれは別々に離してある。
眠りに入るまでのしばしの間、妻に語りかける。
「 ありがとう、さっきは。
明日は、俺が傍にいても余り気にかけるなよ。
そうでないと、南さんもやりづらいだろうから 」
「 おせっかいね。でも … ありがとう 」
「 好きなところに、出してもらっていいから・・ 」
「 …… 」
「 アフターピルを忘れるなよ 」
「うん、わかってる … 」
これ以上、言うことは何もありません。
明日と言う日が来れば、後はすべて流れに任せればいい。
仮に、三人が部屋に籠っている間に私の予期せぬ事態が起こっても、
すべて「理香に訊いてやってください 」と答えるつもりだ。
後、自分で決めなければならないケースが出てくるとすれば、その場で南さんから・・
「どうですか? この後奥さんと ・・?」と、持ちかけられた時どうするか?
それだけだ。
一夜の間に、二人の「夫」と関係する ・・ 果たして、妻は勧められるがまま、それを受け入れるのだろうか?
色々考えれば切がないが、私が考えるような事態くらい、とっくに妻の胸内で答えが出ているだろう。
そのうち、聞こえるものと言えば外で鳴く雨ガエルの声だけになり、互いの気息が小さなものになっていった。
(第四章に続く)