第二章 【 あだ事がまめ事に 】
この辺りで、前章で触れた南さんと妻との関係がどうなっているのか、話しましょう。
妻が彼に対して単に色欲の相手としてだけでなく、精神的なつながりまで求め始めたことは、
彼に抱かれている時の狂おしい所作や、彼と話している時の言葉遣いなどから何となくわかります。
彼女の伴侶である私にとって、そのこと自体は余り好ましいものではないですが、
かと言って、それほど深刻なものとも受け止めておらず、今の気持ちを飾らずに言えば、
それも詮無いことぐらいに思っています。
そもそも、自分の独り善がりな欲望を叶えるために 妻が彼とより深い間柄になるような機会をつくり、
場をしつらえてきたのは私なのですから。
今になって、愛慕の念まで抱いている相手から無理に遠ざけるような真似をすれば、
私たちの夫婦関係に影響が出てくることは必至です。
それに、私自身が南さんに対しては、単に性技だけではなく人間性やや社会性など、
到底 太刀打ちできないと自分で思い込んでいることも関係しています。
そんな訳で、あれこれ思い悩みながら私が出した結論 ・・
それは、妻が好きな時に彼との逢瀬ができるよう、夫婦間の倫理は深く考えないでおこうというものでした。
例え、妻の心が今よりももっと濃く南さん色に染められ、夫としての私の存在が霞んだものになったとしても、
それはそれで致し方ないと一人合点をしたのです。
ただし、それには一つだけ条件があって ・・ 朝帰りになっても構わないが、彼との逢瀬を私に伝えてから出かけること、
それが条件でした。
そうでも しないと「 何をしているんだろう? こんなに遅くまで 。
もしや、事故でも・・」と片時も気を休められません。
詰まるところ、幾分、対症療法的なきらいはありますが、自分が蒔いた種がどんな実りをもたらそうとも
やむを得ないと腹をくくり、妻にはっきり伝えたのです。
この先、私たちと彼との関係がどこに行き着くのかはわかりませんが、当分は成り行き任せで流れていって、
三人の想いに変化が出始めた時、縺れた糸を解きほぐすしかないのでしょう。
こうして、妻と南さんとの関係を割り切って考え始めてから、およそ一年半になります。
妻の方もこのような私のスタンスが気に入ったのか、これまでに何回か ・・
「 彼に誘われたから行ってくるね 」とか、「 今夜は泊るから心配しないで 」と、短い言葉を残して、出かけたことがあります。
これも、一種の割り切りがなせる業かもしれませんが、「 おまえの好きなように」と妻に言い切った手前、
出かける場所や帰ってくる時刻は聞かないことにしています。
こんな風に妻との関わり方を変えると、私の方も「 そろそろ彼に抱かれたいと思っている頃では・・?」と、
変に気を回さなくてもよくなりました。
昼ごろに帰ってきて、幾分はにかみながら満ち足りた表情で洗い物をしている妻の姿を見ると返ってホッとするくらいで、
きっと妻の方も、胸内に秘めた内緒ごとをそのままにしておけることに、安心しているのかもしれません。
以前だったら「どんな風に彼と ・・?」と、情交の様子を根掘り葉掘り訊いたり、
「 何か、俺に言いにくいことでもあるのだろう?」と、腹いせ混じりの意地悪をしたものですが、
「 そんなことは、あって当たり前・・」と、こちらがゆったりと構えるようになると、
何だか、彼との情事そのものまでが好ましいことのように思えてきます。
そんなことを思いながら、再びファイルの中から妻が南さんと交わっている画像をクリックする。
余り記憶が定かではないが、これは確か一昨年の ・・ 道の駅に新鮮な赤カブが並んでいたから多分秋口だろう。
三人で岐阜県の温泉に泊まった時のものだ。
当然、その夜の交わりも私が傍にいる いないは別にして一回で済む訳がなく、何度も彼に抱かれたように記憶しているが、
行為に及ぶ前の二人の姿からして、互いに心を通わせている様子が匂い立っている。
南さんがベッド上で大股を拡げて いきり立った物を弄んでいるが、妻の方もそれに呼応するかのように、
交わりを受け入れる準備を整えている。
二人の様子から察するに、既に私の存在などは眼中になく、これから訪れる至福の時に思いが飛んでいるのだろう。
恐らく、ショーツを脱いでいる妻の方も・・ ほどなく彼の分身を我が身に迎え入れる瞬間を思い浮かべているに違いない。
【画像③ 省略】
この写真は自分が撮ったものであることは間違いないが、何度も同じような場面を目にしていると、
その後二人がどのように絡み合っていったのかまでははっきりと覚えていない。
普通で考えると、こんな妻の痴態を目にすれば怒りや妬みで胸が押しつぶされそうになるはずだが、
PC画像を眺めている今は、不思議とそんな感じにはならない。
ここまで私が一歩も二歩も下がってしまうと、妻を意のままにしている男の姿を見ても、
彼に対する嫉妬や苛立ちはほとんどと言っていいほど湧いてこないのだ。
軽く考えていたあだ事がまめ事に変わってしまった訳だが、きっと寝取られた相手への嫉妬というのは、
相手の男が自分とごく親しい間柄だったり、自分がどうあがいても太刀打ちできない技量の持ち主であったりする場合は、
そんなに感じないものなのかもしれない。
加えて、私自身が南さんに対して、私の妬みや苛立ちが無意味なものになる程、思いっきり妻を愛してほしい。
その結果、夫としての特権を失ってもいいとまで思っているので、
嫉妬という感情が私の心を支配する余地がないのだろう。
そんな思いと裏腹なのがこの写真 ・・ この写真だけは例外で、今でもこの時のことを思い出すと腹立たしいことこの上ない。
あの時は、二人の生々しい交わりを目の当たりにして疲れきった私が、一風呂浴びてこようと部屋を出てから後のことだ。
風呂上りにホテルのバーでいっぱいやっていて、部屋に戻るのが随分と遅くなってしまった。
南さんから、「好きな時に部屋に来てもらえば・・」と言われていたので、ゆったり構えていたのだが、
部屋のドアを開けた途端に写真のような光景が目に飛び込んできた。
既に、二人の交わりが始まっており・・南さんが妻の体を押し曲げて覆いかぶさっている。
薄暗い室内にじっと目を凝らすと、激しい動きを繰り返している股間のものが手もなく暗い翳りに吸い込まれ、
その度に「あん、あん…」という甘い声があがっている・・
【画像④ 省略】
別に、二人がセックスを始める刻限を確かめた訳ではないが、胸中の思いは忸怩たるものがある。
てっきり、私が戻ってくるのを待ってから・・と思っていたのが、完全に無視されてしまった。
それに、先ほどまで 無造作にベッド後ろに放ってあった布団が、今はきちんとベッドの上に畳んである。
いかにも几帳面な妻らしいが、一休みしてから行為に及んだことは疑いない。
私の帰りを待たずに事に及んだのは、南さんが強引に迫ったのか? それとも、妻の方から誘ったのか・・?
それに、室内が暗すぎて様子がよくわからないが、妻に加える動きがどうやら終わりに近いような感じで・・
予想に違わず、私がじっと見入る間もない程あっけなく最終行為が為された。
そのうち、複雑な私の思いなどお構いなしに、ぐったりしていた妻が起き上がり、
無造作に南さんから受け取った薄膜を手にした。
私の目には、それをじっと眺めている妻の所作が、自分を愛してくれた男の残しものが愛しくてたまらない風に映る ・・
カメラのフラッシュに驚いた妻が、慌てて手にしていた薄膜をテッシュで隠したが、
私は、言葉も交わさずに黙って部屋を出た。
期待外れと無視 ・・余り嬉しくない感情が二つも重なると、歪んだ想いの対象はもっぱら妻に向けられてしまう。
振り返ってみれば、妻を南さんの手に委ねるようになった最初の頃は、彼はあくまでも通りすがりの赤の他人 ・・
私と理香の夫婦としての絆を強めるための存在・・ぐらいにしか見做していなかった。
そして、その後も妻に言い含め、私の都合のいい時に彼との逢瀬をもつように仕向けてきたが、
その時は、ここまで抜き差しならぬ関係になるとは思ってもみなかった。
妻の変貌は元より、ここまで深くなった二人の関係には驚くばかりだが、そんな思いとは裏腹に ・・
今は、もうしばらく待てば再び あの時と同じ光景を見られるのだという飢えにも似た疼きがある。
たしか、妻が彼に抱かれる姿を見たのはこの写真が最後だから、今度抱かれるとなればおよそ二年ぶりになる。
次に、今 見ていた画像のやや上にある画像をクリックする。
南さんとの関係が片手では数えられないほどになった今、それがいつ頃のことだったのか思い出すのは、
部屋の様子から推し量るしかない。
妻が彼と初めてセックスした時の画像ではないと思うが、この画像を見ると当時のことが懐かしく思えてくる。
この時分は、まだ二人の関係が浅く、南さんが妻の裸を見たいぐらいのことを言いながら迫ってきたのだろうが、
妻の体も今と比べると随分と若々しいし、
彼の分身に伸ばす手も遠慮気味で、交わりの中に恥じらいや慎ましさが感じられる。
彼の腰の動きに合わせて「あっ… あっ…」と漏らす悦びの声も小さなものだった ・・
それが今では両手が背中に回り、彼の体をひしと抱きしめるまでになっている。
【画像⑤ 省略】
そして、私はそれに歯止めをかけるところか、夫婦間の倫理までねじ曲げて、いつでも好きな時に彼と・・
二人の関係が今にも増して のっぴきならぬものになるよう 後押しまでしている。
(第三章に続く)