第八章 【 ポリアモリーの関係 】
長い二日間が終わり自宅に戻ったが、妻の方は昨夜の疲れを引き摺っているのか、お風呂に入った後、
「悪いけど、先に休ませて…」と言って寝室に入っていった。
こっちを振り向きながら言った「あなたも、ずっと運転しっ放しだったのだから、早く寝なくちゃだめよ 」という言葉がとても嬉しかった。
無理もない。
想像するに休憩を挟んだにせよ、昨夜から今朝まで少なくとも数回は抱かれたはずだから、
その都度、イキっ放しだったとすると、ほぼ半日間 重労働をしたようなものだ。
「 朝食のことは、気にしなくていいから・・」
妻に労わりの言葉をかけながらも思いは封筒の中身に飛んでいる。
車を運転している間は言うに及ばず、家に帰ってきてからも ずっとチップのことが気になっていたのだ。
このまま、封筒の中身を確かめずに眠る訳にはいかない。
妻の方も、その辺りのことを察知して早寝を決め込んだのだろう。
さて、一人になって、早速 メモリチップをPCに差し込む。
心を落ち着かせながら画面を見ていると、ベッドの上で体を寄せ合っている二人の姿が映し出される。
予想に違わず、私が思っていた通りの光景だ。
型どおりの愛撫が終わると、ようやく私が待ち望んでいることが始まる気配を感じる。
何やら会話をしているようだが、音量を最大にしてもその話の詳細までは聞き取れない。
そのうち、妻がこちらに向かって後ろ向きの姿勢になったが、膝立ちでお尻をこちらに突き出したまま動かない。
じっとしているせいか、こちらから見ると 陰ったところの下から始まる縦長の経線が丸見えだ。
突然、妻の傍にいた南さんが画面に向かって歩いてきて、大きな手がこちらに伸びてきた。
恐らく、カメラのアングルが悪いのに気づいた彼が、角度を修正するために前戯の途中で場を離れたのだろう。
すぐに南さんが戻っていくと、すぐに妻のお尻が南さんの大きなお尻で覆われた。
こんな格好になれば、次に映し出される映像と言えば決まっている。
予想にたがわず、南さんが妻の腰を手元に引き寄せ、赤みを帯びた肉茎を潤んだところに宛がう。
そして、欲情したものをゆっくりと押し込んでいった。
間髪を入れず、昨夜と同じような「あぁ …」という悦びの声があがったのが微かに聞き取れた。
食い入るように見ていると、南さんが抱え上げた妻の片脚が宙に舞い、赤黒い怒張がふっくらした恥丘に一定のリズムをもって滑り込んでいく。
( こんな格好を見るのは初めてだ・・
かなり前のことだが、私とのセックスで妻が「 何だか、雲の上に乗っているみたい… 」とつぶやいたことがあるが、
数時間前にも交わった体だ。
恐らく、そんなステージはとっくに通り越し、火照った体は私との交わりでは味わったことが無い領域にたどり着こうとしているに違いない )
抽送を受け続けるうちに、蕩けるような快楽が湧いてきて全身が官能に粟立ってしまう。
すると、頭の中が真っ白になって、背徳の翳りなんてものは微塵も感じなくなっていく。
どうあがいても、男性器の心地よさからは逃れられないのだ。
【画像⑭】
そのうち、顔がシーツに伏せられていったが、これでようやく南さんの部屋に向かう前に「一晩だけ … 」と小さい声で言った妻の言葉の意味が理解できた。
その後に続く言葉を想像すれば、恐らく「あなたのことを忘れさせて」とでも言いたかったのだろう。
誰にも邪魔されないところで彼と二人、思いっきり・・
その気持ちはわからないことはない。
しかしながら、それほど彼に首ったけになって、彼との交わりがこんなに忘れ難いものになってしまうと、
私との営みに嫌気がさしてきたとしても不思議ではない。
自分の方から妻を男の手元に差し出しながら、こんな矛盾した思いに慄く私・・
これも、被虐を求める男の歪んだ愛情の表れなのだろう。
ここでちょっと、こんなこと カミングアウトするのも恥ずかしいが、私の心の奥深くに潜んでいる“被虐性”について話しておきたい。
私も自分の妻を他人に抱かせるような真似をしているのだから、“嫉妬”を覚えないなんてことはない。
当然、人並みに 妬みややっかみを覚えることは私にもある。
しかし、いざ、その場に臨むと、それより もっと大きい感情が私の心を支配してしまう。
その感情を一口で言い表すのは難しいが、何だか 自分が大切にしているものが滅茶滅茶に壊されることを願うような複雑な心情だ。
例えれば、幼い頃、学校帰りの小径で、好きな女の子をいじめて泣かせたことがあるが、その時の心持ちによく似ている。
そんな心持ちが、長じた今となっては、妻が相手の男に手荒く扱われ、
恥ずかしいことをされたり“イキっ放し”の状態になったりすることを願うようなものに変わってきている。
また、一面、ここまで自分が一歩も二歩も引いて、妻が望むがままに・・そして、相手の男が求めるがままに・・と、
耐えてきたことが私を歪んだ性愛の持ち主にしたのかもしれない。
話を元に戻すが、そんなことをぼんやり考えているうちに、スムーズに流れていた画像が一旦途切れて新たな映像が流れ出す。
室内の照度が先程とは違っていて、天井の照明によるものではない。
先程のセックスの続きでないことは確かだ。
これで どうやら、明け方にも交わったことは間違いなさそうだ。
朝方、私が二人の部屋を訪れた時 返事が無かったのは・・ドアのノック音を聞いてもすぐには応じられない状況がそこで繰り広げられていたのだ。
私が一番ぐっときたのは、次のシーン・・
妻が、彼の徴を手に取って、我が身の局所に迎え入れようとしている。
動画に映る妻の顔の表情を見れば、その行為が彼に乞われて止む無く行っている行為ではなく、自ら求めてそうしていることが一目でわかる。
どうせ、「名残り惜しいので、最後にもう一回どうですか?」ぐらいの口説き文句で迫られたのだろうが、これまで何度も肌を寄せ合った仲ともなれば 到底断り切れるものではない。
妻がどんな思いでその申し出を了承したのか知る由もないが、翌朝になり日付が変わっても、その誘いは迷惑なものではなかっただろう。
【画像⑮】
ビデオの画像は、そのまま南さんが妻に覆いかぶさり、正常位による交わりへと続いていったが、そのうち、南さんがこちらに向かって歩いてきたと思ったら、途端に映像が途切れた。
意図的にスイッチを切ったことは明らかで、想像するに余り私に見せたくないような行為がその後 展開されていったのだろう。
最後に一言・・ どうやら 私たちの関係は“ポリアモリー”という関係に属するようだ。
ネットに載っていた説明を読むと、それは 夫婦と言えども一対一の性愛関係を絶対のものとしない考え方で、そこには約束事はあっても夫婦間の倫理は存在しないと書いてあった。
まさに、今の私たちのスタンスを端的に表した関係のように思える。
これまで私たちが辿ってきた足跡を振り返ると、初めのうちこそ不安や嫉妬の感情があったものの、妻との話し合いを重ねる中で、お互いが第三者の存在を認めるように努めてきた。
例えば、妻が南さんという特定の男性に想いを寄せ始めた時、私は妻の感情を無視して
その事実を頭ごなしに撥ねつけるようなことはしなかったし、
妻にしても私の想いを正面から受けとめ、どうしたらお互いが幸せになれるか一緒に考えてくれた。
思うに、世間で取り沙汰される不倫のようなネガティブな問題も、誰かを所有したり誰かに所有されたりという観念が原因で起きるのかもしれない。
それで、妻を私以外の男に抱かせることについてのこれから先の話だが、
例え、妻のことをシェアーワイフみたいだと言われようとも、伴侶に隠れてこそこそと逢瀬を重ねるような真似はさせないでおこうと思っている。
もちろん、私たちの関係が不安定でアンバランスな関係の上で成り立っていることは百も承知だが、これまでずっと相手の意志を尊重してすべてオープンにしてきたからこそ現在の私たちがあるという自負もある。
先々のことは知る由もないが、今後、妻の気持ちがもう一人の男の方に更に傾いていって、
夫婦の絆が綻んだとしても、それはそれで仕方がないと思っている。
― 終わり -
結びに、これまで長い間おつきあいくださいました方々に心よりお礼申し上げます。
励ましのエールをいただいたおかげで、何とか最終章まで漕ぎつけることができました。