本当の始まり「ちょっと逆上せちゃったかも…」そう言って、バスタオルを巻いた彼女はベッドに腰掛けた。「大丈夫?」「大丈夫…」彼が本当に訊きたいのは、そんなことではない。「お風呂で…何してたの?」「…何にもしてないよ」そんな筈はあり得ない。「ホントは?」「ほんとに…」「だって、声聞こえてきたよ?」「話してたから…」「でも、Hな声だった…」「気のせいじゃない?」あくまでもシラを切り通すつもりか?それなら…と彼は甘えた声で請う。「教えてよぉ?」「秘密~…」「お願い~」 「そんなに聞きたいんだったら、一緒に入って聞いてきたら?」バスルームからはβがシャワーを浴びる音が聞こえる。ちょっと怒ってる?サプライズの度が過ぎたのかな…。そうだよね…。彼女の顔を見る限りでは、彼に意地悪して楽しんでいる様子。「それはちょっと遠慮しとく…」そう言って、拗ねた彼はTVのリモコンを手にした。少し間をおいてβが戻ってきた。ここぞとばかりに彼は、密室での出来事をβに尋ねてみた。しかし、「何もしてないです…」「秘密です…」の二点張り。しかも彼女とアイコンタクトを取っている。無駄な詮索は諦めた…。しかし、彼女とβが仲良くなったことは明らかに見てとれる。それは彼にとって、かなり喜ばしいことだった。「じゃ、俺も入ってこようかな…待っててね」そう言って、彼はバスルームに消えた。「やっと行ったね。しつこくすると、嫌われるんだから…ねぇ?」ニコニコしてβに同意を求める。「大丈夫なんですか?」「いーの、いーの。気にしないで」彼女はベッドの上で四つん這いになりβに臀部を向けた。βは、丸見えになったバスタオルの奥に興奮する。彼女は這い這いしながらベッドに潜り込み「こっちに来たら?」と、‘隣…空いてますよ’的な感じで、シーツを盛り上げた。βは戸惑う。そこで彼女は、「さっきの続き……する?」躊躇していたβの迷いは、一瞬で消え去った。「いいんですか?さっき、待っててねって言ってましたけど…」「いーの、いーの。気にしないで」2人は抱き合った。彼女はβにキスをした。驚いたβは「彼さんが、キスはダメって…」最後まで言い終える前に、彼女は再びβの唇を塞いだ。時間を掛けて互いの唾液を味わいながら抱き合う。一瞬、絡み合う舌が解けた時、「いーの。気にしないで」と彼女は囁いた。再び舌を絡ませながら、お互いの身体を弄り合う。バスルームの時と同様に、彼女の喘ぎが室内に響いた。当然、それは彼の耳にも届く。また何かやってるし…。バスタブに浸かりながら、彼は溜め息をつく。「ま、いっか…」‘早く自分も参加したい…’という思いよりも‘2人の時間をもっと楽しんで欲しい…’という思いが勝り、色々と想像しながら時間を掛けて、勃起した身体を洗う。時折耳を澄まし、今ベッドの上で何が起きているのか…そして、少し前に、ここ…バスルームで2人は何をしていたのか…ここを出た後、ベッドの上で3人は何をするのか…。彼はバスルームを出た。バスタオルを探すが、既に無いことに気付く。2人の入浴中に、従業員が持ってきた3人目のアメニティは、テレビ横に置きっぱなしだった。既に彼女とβが先に使ったバスタオルは、ベッドの上、そして下に落ちているのが見えた。「……くていいってば…」βが彼女の機嫌を損ねたか…?そう思える口調だったが、どうやら彼の姿に気が引けて、βの手が止まってしまった…それが気に食わないらしい。「…止めないで…」小声だが、彼にもハッキリと聞き取れた。仕方なく、フェイスタオルを腰に巻き、ベッドに近付く。「もう始めてたの?そのまま続けて」
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第8部 【騎乗】 自分のいないバスルームと自分のいないベッドの上そこから聞いた彼女の喘ぎ声を目の前で漏れる吐息が思い出させる。愛しい人と自分以外の男性がしていた…何か…を想像しながら、自分と自分以外の男性の愛撫に、今まさに感じている彼女を目の当たりにしながら、彼の興奮は、増すばかりだった。しかし、これから彼女はβ自身を受け入れる…果たして彼女は本当にそれを望んでいるのだろうか…?また、自分も本当にそれを望んでいるのだろうか…そんな迷いが一瞬頭に過り、彼の興奮も徐々に萎んでいく。それを悟ったかのように彼女は彼を一瞥し、シーツと彼の手を払うようにβに抱き付いた。そしてβの唇を彼女が奪う。「キスはダメって言ってたのに…」その彼の言葉に、βは離れようとするが、彼女はさらにβの後頭部を押さえ付け舌を絡めた。βは唇を預け、彼女に忠誠を誓う。彼を見つめる彼女の瞳は、やけに自慢気だった。2人の舌がほどけたその時、彼女はβを見つめ、まるで彼を除け者にするように「いいの…。ねっ?」(私がいいんだから、いいの!ねぇβくん、そうでしょ?)とβに同意を求める。その言葉が、さらに彼の嫉妬心を煽り、萎え掛けた彼は最盛した。そんな彼女は、自ら2人の男を握りしめ、上下に擦り始める。「どっちが大きい?」彼が聞くと「わかんない…どっちも…」現実は…明らかにβの方が上だ…。彼女は彼に気を遣っているつもりなのだろうか…。当然、彼はそんな答えを望んではいない。「じゃあ、上の口で確かめて…」男2人は同時に膝立ちになる。彼女は尻を枕元に向けて、四つん這いになり、まず最初にβを咥えた。喉奥まで刺さるように前後する頭を彼が押さえ付け、嘔吐く。彼は、咳き込んだ彼女の髪を掴み、その唇に自分を根元まで捩じ込んだ。「どっちか判った?」涙目で答えた彼女は、自らの意思で選んだβを咥え込む。 「こっち…」βは片方の手で彼女の胸を掴み、もう一方で彼女の髪を掻き上げた。「美味しいの?」そう言いながら、彼は突き出した割れ目に指を沈めた。「あ…んっ…」咥えたまま頷いた。髪を撫でたβの手は、背中、腰と徐々に下がっていき、彼の指と共同で彼女の中を掻き混ぜた。「はっ、ヒャッ…」「イヤなの?」2人の関節が彼女の中でぶつかり合い、3人それぞれがゴリゴリとした感覚を得る。「そんな風にしたら…感じちゃう~っ」思わず、彼女はβを口から離した。βは彼に指示され、彼女の後ろから肥大したクリトリスを舐め廻す。さっきのお礼か、お返しだろうか…そう思えるほど、丁寧に。2人の指はまだ彼女の中で、戦っていた。「もっと…入れてっ!…」と彼女が言う。奥まで?本数?それとも両方?βは本数を増やし、彼はもう少し奥にある弱点を突き、内側から秘丘を押し下げた。たちまち彼女からは2~3度に分けて、勢いよく潮が吹き出る。まるで四つん這いで放尿したかのように…。ベッドの上には直径1mほどの水溜まりができ、枕もグッショリ濡れている。気だるそうに彼女はその上に寝転んだ。「冷たっ!…」再び四つん這いになった彼女は、隣のベッドに跳び移る。βは彼女に言った。「また、凄いいっぱい出ましたね」また…?と言うことは、お風呂でも出したに違いない…。彼は、敢えてそこには触れないことにした。「こういう体質なんで、車にはいつもバスタオル敷いてるんだよね~。それでも量が量だけに、シート濡らしたりするし…。それに勢いよく飛ばし過ぎて、ダッシュボードにはいつも染みがある…」「そうなんですか!こんなに出るの、初めて見ました!」βはとても喜んでくれたようだ。是非もっとご覧戴きたい、ご賞味戴きたい…彼はそう思う。潮を吹いた後の彼女は大抵、「喉乾いた…」コンビニで買ってきたペットボトルの栓を開け、彼は自分
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第9部 “彼以外の男性”2人だけの時間を楽しんだ後、彼は自分の胸に寄り添う彼女に、帰り際に車内でしたのと同じことを再確認した。「聞いてもいい?」「うん」「今日は…ほんとに楽しかった?」「うん槌」「気持ち良かった?」「うん槌」「どのくらい?」「すっごくいっぱい槌」「また、してみたい?」「うん槌」「ほんとに?」「ほんとだよ槌」ギュット抱き締めた。初めて彼女がβを受け入れてから数週間程が経ったある日。2人は、2回目のβとの時間を過ごした。初回の待ち合わせに要した“彼の下手な小細工”は、それ以降は不要になった。「…この人…ならいいかもねっ」彼女は、随時行われるβの事前選考の段階から積極的になっていた。それは、“最初のβとそれとのSEX”に満足した結果と言える。…何事も最初が肝心…昔の人はよく言ったものだ…。そうしてβを交えた2人のプレイは回数を重ねていく。その中でも特に印象的なエピソードを幾つかここで紹介しよう。尚、前述及び、これから登場する“β”とは、…全てが同一人物という訳ではない…ことを断っておく。彼の意向を踏まえ、あくまでも…彼以外の男性…という意味で捉えて欲しい。○“4度目の…正直…”その時彼女は、βの上に跨がっていた。熱い口づけを交わしつつ、巧みに腰を使いながらβの性器全体に満遍なく、そして丁寧に、自身の粘液を塗り付けている。…もう入れたくなっている…そのサインのつもりなのだろう。そこで彼は、ベッドサイドに置いた銀色で縦長の箱に手を伸ばした。が、そこで一旦躊躇する。彼の視線の先には、おねだりするような瞳で見詰める彼女がいた。それはまるで、…そんなのいらない…とでも言っているかのように…。彼はそれを制止も強制もするつもりはない。彼女のみがその決定権を所持している。そして…本当にそれで…「いいの?…」そう彼が言ったのを合図に、彼女はゆっくりと腰を沈めていく…。βの亀頭全体が、彼女の膣口を通過したその時、彼女は全体重をβに預け、一気に根元まで嵌め込んだ。じっくりと膣壁全体にβの形と太さを記憶させた後、彼女はゆっくりと動き出す。…生はダメだよ…そういう約束だった筈…。βが頭を上げて彼を見た時、相当驚いた様子だった。しかし、それも一瞬…。「…うわっ…おぉ…」余程気持ちがいいのだろう。たちまち険しい表情に変化し、天を仰いだ。徐々にスピードを上げ、ストロークも大きくなっていく彼女。βも遅れまいと、彼女の腰に手を廻し、自分の腰を浮き沈みさせ、その後を追う。…パン……パン……と時折、βのその手で尻を叩かれた雌馬は「……はぁん……いぁん…」と切ない声を上げ、性喰器を収縮させる。雄雌共に、それが気に入ったようだ。「気持ちいい?」「はい…」「私もぉっ…」息遣い荒い二人が言葉を交わす。彼は彼女の背後に回り込み、沈黙のまま二人を観察する。彼女の尻穴がヒクついている。そのすぐ下では…想像通りの好景が繰り広げられていた。彼女の弾力のある襞が、βのエラに引っ掛かり捲き込まれる。その内側に見える膣孔が、奥深くへと太く堅い生の肉茎を
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第9部のつづき○“面白そう…”“肉便器”大抵の成人男性なら、一度は聞いたことがあるだろう。女性を蔑むようで、個人的には好きではない言葉だが、以降彼女は、まさにそれに相応しい性長をみせた。だからといって、“手当たり次第、誰彼構わず…”という訳ではない。既述した最低限の条件をクリアしている必要はある。それが2人の望みだから…。例えば、…時間にルーズ過ぎる人……中学生、高校生等の未成年者……お酒を呑んでから来た人…などは、彼の方から丁重にお断りした。1つ目は…冷やかしか非常識か。2つ目は…実のところ2人共にその気はあった。しかし、何とか条例…という問題があるため、我慢して想像しただけに留めた。3つ目に関して言えば、待ち合わせて一緒に呑んだ後や、そのなり行きで…という状況であれば、特段の問題は無かった筈だ。予定が変更になった時は、ドライブや露出に勤しむ。今2人がいるのは、ある大きな橋の下。ドライブ中に2人のどちらかが、催した際に頻繁に用を足す場所である。念のために言っておくが、ここで言う“催す”のは尿意ではない。“挿入欲”のことである。彼は携帯を操作していた。…暇?何してる?……暇。TV見て寛いでいるとこ…彼が送ったメールに即効で返事が来る。…今、TELしてもいい?……いいよ……でも、喋んないでね?……何で?…彼は助手席の足元に潜り、目隠し彼女の豆を舌を使って転がしていた。右手の指2本が彼女の中で疼いている。さっきまでは、左手にデジカメを持ち、ピンク色の彼女のヒクつきを撮影していた。そんな中、ふと彼は、面白そうなことを思い付く。カメラを置き、代わりに手にした携帯。それで、彼女の喘ぎ声を別のβに聞かせようと言う魂胆だった。彼女が吐息と喘ぎ声を漏らす中、彼は通話ボタンを押し、強く耳に押し当てた。プップップッ…トゥル…1コールで音は途切れ、画面を確認した。0:01…0:02…通話中のカウントは動いている。彼は彼女の口元に携帯を近付けたその時、彼は自分の犯したミスに気付く。「ねぇ?さっきから何やってんの?」彼女は気付いていた…。携帯のボタンを操作する音、それと彼の耳元から洩れた発信音まで…。車のエンジンを切っていたのが仇になったようだ。シラを切ろうとしたが、アイマスクは既に外されているため無理。そこで彼が取った行動は…携帯を強引に彼女に預け、指と舌先を激しく動かしたこと。「…話してみたら?」「…いやん…んっ…あんっ…」そうして彼はウヤムヤにした。2度目の「…話してみたら?」で、機嫌悪そうな彼女はやっと「…もしもし…こんばんは…」ここぞ、とばかりに彼は彼女を責め立てた。思わず彼女は吐息が漏れる。…彼に触られてるの?…「うん」…気持ちいいの?…「うん」…どこが?…「クリちゃん…」そこまで2人のやり取りが聞こえてきたのだから、彼女に発信音が聞こえて当然だ。その後は、彼女の声が大きくなりよく聞き取れなかったが、喘ぎ声混じりに「……て…うん…いいよ…」などと、時々何やら返事をしていた。メインの声を聞かせようと、彼は壺の中を軽く掻き混ぜる。「…あっ…あん…イッちゃいそう…」
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第9部のつづき○“ばい…”「…!!…スゴぉっ…ふっと…いぃっ!…」彼女が悲鳴のような叫び声を上げた…。馬並み…という表現がピッタリのそのペニスは、長さは彼の約1.5倍、太さにしては約“倍”近い…。これまで見た中で、最もデカい代物だ。それに見合うゴム被覆は、この辺の薬局では取り寄せになるため、アダルトショップなどで見掛けた時に購入しておくのだと言う。更に驚いたことに、事前審査の段階で持ち主は…遅漏なんですが…と自己申告していた。さっきまで彼女はそれをフェラしていたのだが、カリの部分まで咥え込むので精一杯…といった感じだった。大抵の女性がそんな感じのため、これまで口でイカされたことは、二度…しか無いそうだ。二人が愛撫し合う間、彼はただただ待ち続けた。ようやく待ちに待ったその瞬間は、まさに今、すぐ目の前へ訪れようとしていた。βは彼女に気遣い、「自分のペースでいいよ…」と、騎上位での挿入を提案した。彼女はその言葉通り遠慮せずにβの上へと跨がる。腰を前後させ入り口に宛がうと、ゆっくりと腰を降ろしていく。すると、彼女が加える力の作用で、βは若干太く短く圧縮されていく。二人の間の抵抗が0になった時、不運にもベクトルは期待から外れた方向へと反れてしまった。彼女の狭隘な花口と潤沢な粘液のせいだった。「あん!…おしりに入っちゃうかと思った…」苦笑いしながらβから降りた彼女は、しゃぶり付き、舌を使って充分な唾液を纏わり付けた。再挑戦する。やはり、βには、かなりの力が加わっているのが見て取れる。だが、今回は幸いにも、βの幹先は徐々に徐々に彼女の膣にめり込んでいった。ミシッ…メキメキッ…彼にはそう聞こえた気がした。幹の最も太い部分が膣口に消えたその時、それまでに畜勢された力が、一気に彼女の最深部へと解き放たれる。ゴリッ…ズゴッ…彼女には、そう感じられた。その瞬間の彼女の歓喜の叫びが「…!!…スゴぉっ…ふっと…いぃっ!…」である。既に彼女の奥まで突き当たっているにも拘わらず、βの根元にはまだかなりの入り代を残すほどの余裕があった。もっと壊されたい衝動に駆られた彼女は、更に腰を降ろす。「…もう…はいんないかもぉ…」あと数cmを残すところで断念した彼女。それを聞いて二人の間に乱入する彼。「そうなの?じゃあ手伝ってあげるから…」…決してそんな筈はない…そう考えていた。何故ならば…彼が仕事で使う“硬くて太くて長い物”を加工した自作のディルドが、彼女のベッドの引き出しの中に入っている。βの太さや長さにも遜色はないデカさのものだ。そのディルドを根元まで入れ切る柔軟性を持つ彼女が、許容範囲を越えていることなど有り得ない。そして彼は、彼女の両肩にそっと手を添えた。「ほら…脚を挙げてごらん…」今日の彼女は、怖いほど従順である。「…ひゃ──っ…」そんな奇声を上げた。彼女は一気に両脚を曲げ、自重が接点に集中すると、案の定すっかり根元まで呑み尽くした。「痛いの?」「…いぃの…すっご…いぃ…のっ…」彼女は何度も首を横に振る。「…出ちゃいそう、ぅっ…出ちゃいそっ…」一刺しで潮を噴いてしまうほどの圧迫なのだろうか…。「出してもいいよ?」彼女は再度、何度も首を横に振る。「…おちんちん…おっきすぎて…口から出ちゃいそ…」その時彼女は、苦痛とも取れるほど拡張された膣道で、それまで経験したことのない充実感を得ていた。身を退け反り、硬直させ、小刻みに痙攣していた。やがて、言われた通りに彼女のペースで動き出す。ゆっくり浅く…。そしてβのサイズにフィットするよう、自らの意思による拡張が繰り返された。速く深く…。そうかと思えば、根元まで咥え込んだまま、大きく腰をくねらせ、ゴリゴリと中を掻き混ぜられる感覚に酔いしれる。その間、「…あん…いぃ…スゴぃ…おっきぃ…」のどれかを、傷付いたレコードのように何度も繰り返した。「…おねがい!突いて!いっぱい奥まで突いて!…」やがて、狂ったようにおねだりする。
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第10部 “隠し事…”○彼の一週間前に3ヵ月程度の出張から帰ったばかりの彼は、これから再び東京へと向かう。今回は出張ではなく、彼の仕事の拠点そのものを東京に移す、というもの。だが、正確には…少し違う。「おにいさん!安いから寄ってかない?」前回の出張の際、仕事を終え宿に向かう途中の彼は、ほぼ毎日のように同じ時間、同じ場所で声を掛けられた。飲み会や、クリスマス・誕生日など何かしらのイベントがない限り、滅多に酒を呑まない彼は、その度に無言で掌と首を小さく振った。…そのうち、顔を覚えて誘われなくなるだろう…と彼は考えていたが、案外違っていた。「こんばんは」「お疲れさま」「今日は早いお帰りね?」その女性達と軽く挨拶を交わすようになり、次第に、その中でも特に、ある一人の女性と他愛もない立ち話をするようになっていった。彼にとっては、一時の暇潰しのつもりだった。「今日はいないの?」同僚の女性に彼が声を掛けると「今はお店にいるよ?呼んでくる?」「いいよ、聞いてみただけだから…」いつもの場所にその女性がいないだけで、何か物足りない街並みに思えた。そしてそれは、その女性にとっても同じだったのかも知れない。「あっ!お帰りっ!」「昨日…何してたの?来ないから、黙って帰っちゃったのかなぁ…って思ってたの…」「ごめんね。昨日は残業だったから…」「な~んだ、そっかぁ」数週間、そんな仕事帰りを過ごしたある日、いつものように挨拶を交わすと、「もう晩ごはん食べた?これからホテル帰るの?」そう尋ねる女性。「まだ…コンビニ寄って、宿帰って寝るだけ…何で?」「近くに美味しいお店あるから行こっ?」…まさか、女性から誘われるなんて…困惑している彼がまだ返事をする前に、女性は同僚に声を掛けた。「ちょっと、ご飯行ってくるね~」…可愛らしい見た目の割りには、積極的だなぁ…かなり広めの店内は、食事時ということもあり大勢の客で賑わっていた。辛うじて空いていた中央付近の一席に座る。「良かったぁ…。ここ…いつもお客さん一杯なの。美味しいし、安いし、量もスゴく多いから…」女性の解説を聞きながら、メニューに一通り目を通した後、彼は大声で店員を呼び、三種の単品とライスセットを二つ頼んだ。「平気なの?食べ切れる?」テーブルに並んだ料理は、写真で見たそれよりも遥かに量が多い…。…食べ物を残すのは、勿体無い…彼は子供の頃、そう教えられた。一日一食だけの大食いの彼と、小食な女性とで、なんとか完食することが出来た。…次は考えて頼もう…レジの青年の片言の日本語に対し、「ご馳走さまでした」と二人は声を掛け、脂ぎった階段を数段登って店を出た。「ね?言った通りでしょ?」「うん、ビックリ。ほんと美味しかったぁ。また来ようよ」「そだネ。また来ようネ」彼は、その中華料理店をお気に入りに登録した。「もう帰る?良かったら、も少しだけ付き合って?」「えっ?どこに?」「いいから、早くぅ」彼の手を引き、腕を組んだ。穏やかな風になびく長い髪から、女性の微かな匂いが彼を惑わせる。「教えてよぉ」…どこか怖い所に連れて行く気じゃないよね?…「ひみつ…♪」彼の思いをよそに、女性は爽やかに微笑んでいた。「って言うか、お店…大丈夫なの?」「平気、平気。私、こう見えて店長だから…」「え?…あ!…へぇ…そうなんだ…」人は見掛けに依らないものだ…。そんなことよりも、“互いのことなど殆ど何も知らない”しかも“異性同士”の二人…連れて行く方、付いていく方、共にどうかしている。腕を組んだカップルにしか見えない二人は、池袋駅の西口から程近いホテル街に入って行く。
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