小さな商談の待ち合わせ時間までの暇つぶしに立ち寄った古書店。どちらかと言えば苦手な独特の古書の臭いと、買い取ったらしい山積みの本に囲まれたレジカウンターの中の老人の、これまた独特な整髪料の臭いが混じる空間。所狭しと陳列された棚の隘路を一巡りする。想定内の一角に、期待通りのアダルトコーナー。いかにも古めかしい春画集を皮切りに、先月号の雑誌までの想定外の品揃えで、以外にも整然としていた。何冊か品定めしていると、「お兄さん、ちょっとごめんよ。」と装丁を直したらしい数冊が棚に運ばれて来た。「これが一番好きだったんだけどねぇ・・・。」とボヤくように呟きながら、中段にまとめて突っ込まれたのは、夫婦交際の月刊誌だった。中でも厚めのものが目に留まり手に取ってみると、その厚さの理由は、別冊の【夫の目の前で、夫以外の男性に淫らに乱された妻たちの体験談】が付録だからだったからだ。社長令嬢として何の不自由もなく、やれ美人だ!やれ才媛だ!と持て囃されて成人した割には、何の気取りも奢りなく、常に控え目で、どちらかと言えば天然系のお嬢様だった妻は、この約十数年の間、好色な夫に依って飼い慣らされ、昼間に見せる清廉、清楚な美貌とは真逆の、淫靡な夜の貌を持ついい女へと変貌した。とは言え、躾に厳しかった母の教えでもある、性に対する価値観には、結婚するまでは処女を守りなさい・・・等々の、一筋は通っていて堅物な一面がある。その妻が、目の前で夫以外の男に抱かれ、淫らに乱れる・・・その情景を想像した瞬間、股間は痛みを感じる程の漲り・・・そこから、私達・・・と言うより、私の性生活は、まるで淫乱な邪神に憑依された僕のように、豹変するのでした。
つづく