これを読んでいる男達は、正月を何処でどんな場所で過ごしているのだろう。
正月からエロサイトを眺めているんだから、大して俺と変わらない惨めな境遇かもしれないが、俺はここで自分の不遇自慢をするつもりは無いが、俺は世の中的にも、かなり悲惨な部類になるだろう。
実際、元旦の夜に俺は帰る家も、転がり込む友人宅も無い。自業自得と言えばそれまでだが、駅前の個室ビデオ店で隣から聞こえるAV女優の大袈裟な喘ぎ声に辟易としながらコレを書いている。
俺はコロナ影響で長く勤めたあまりマトモとは言えないバーのバーテンダーをクビになった。
そんな時に、やはりマトモとは言えない常連客に誘われて福祉関係の仕事を始めた。
普通とは言えない常連客の福祉関係の仕事というのは、住所不定の人間を探し出し、生活保護を受給させ住居、飯を当てがう作業だ。詳しくは書かないが世の中、弱者の骨までしゃぶって金にする連中が居るし、またそこまで落ちてもエサのように他人から支給される三度の飯を食らって呼吸が止むのを待つ様にただ生きる人間も居る。
この仕事について2年目の夏、俺は普通の人間が来ない事務所でこの仕事のフィクサーの、でっぷり肥えた元官僚の爺さんに引き合わされた。
辟易とするほどヤニ臭い息を吐きながら、宮田と名乗る爺さんは人を馬鹿にする様な目で俺をじっと見つめて、日頃はお疲れさん、ところで君は水商売上がりなんだってねと含みのある口調で尋ねてきた。
俺がそうだと応えると、君に一軒店を面倒見て貰いたいんだと俺の目から視線を逸らさず言った。
宮田の話では、やつの女房は元銀座のホステスだったらしい。官僚時代は流石に大人しく上流夫人を演じて来たものの、天下ってから特に彼女のハレの舞台が無く、暇を持て余し、元々社交好きの派手な女で、店をやりたいと言って聞かないのだそうだ。
店は流行らなくて良い、素性が良く無い客や下手に彼女に手を出す客が出ない様に、要はお目付け役をやってくれという事だった。
俺は面倒に巻き込まれる、特に女絡みの面倒はごめん被りたく、宮田の機嫌を損なわない様に丁寧に、その話を断った。
宮田は明らかに苛つき、そうじゃない。私の説明が悪かった様だ。君が、この仕事をやるんだと伝えたんだよ。と先程より更に険しい目つきで俺をじっと見据えて低い声で言った。
沈黙を割いて事務所の玄関扉が開くと、白のパンツスーツにサングラスをした女が入ってきた。
女は俺を見やりながら、宮田にあなた、この人が言ってた人?と尋ねる。
宮田がそうだ。彼が昔、バーテンダーを長くやった経験のある男だ。と応える。
女がサングラスを外し、肩までの美しい髪をかき上げる。40を越えたぐらいだろうか、流石に銀座のホステスから高級官僚夫人の座を掴んだ女だ。
自信に溢れた美しい瞳は、人を惹きつける。
若い頃は女優なみの美しさだったろうと思わせる女の表情は40を越えて少し怖さを感じさせるくらいの妖艶さを持っていた。
俺はこの女に関わった事で、正月に垢じみた個室ビデオ店の狭い部屋で、人目を憚かるように過ごさなければならない羽目になった。