今まで、今、自分が置かれた境遇を彼女に話していた。会社から切られて以来、必死にバイトでしのぎ、毎日働いて誰とも会話らしい会話もしてこなかった俺は堰を切ったように彼女に話をした。話終わって俺は気まずくなり、すみません。こんな話をしてしまって牛丼出来たみたいです。お待たせしました。と言って慌てて牛丼を取りに行き彼女に渡した。彼女は田中さん、大丈夫ですか?色々とあったんですね。頑張ってください。こんな事しか言えなくてごめんなさい。とすまなそうな顔をした。俺はとんでもない、何故か馬鹿な話をしてしまいました。申し訳ない。お待たせしました。有難うございました。と打ち切ろうとした。彼女は心配そうな表情で牛丼を受け取ると店を出る時にもう一度振り返ってぺこんと頭を下げた。俺は自己嫌悪に襲われ、恥ずかしくて居た堪れず、どうにか勤務時間を勤め上げると留学生達に挨拶もそこそこに逃げるようにアパートに戻った。何故あんな話をしたんだろう。俺は後悔で苦しくて仮眠どころでは無く、時間になると無理に身体を起こして何とか弁当屋の仕事に向かった。次の日、俺は彼女が牛丼屋に来ない事を願いながら仕事をしていた。店の横に空いたバットを積み上げている時だった。背後から田中さん。と声を掛けられた。俺が振り向くと彼女が立っていた。俺はバツが悪く、バットを直すふりをしながら昨日はくだらない話を長々として、すみませんでしたと言った。彼女はいえ。私、心配で。余計なお世話かもしれないですし、私が何を出来るわけでも無いんですけど。でも、もし何か話したくなったら電話ください。そう言って彼女は俺に名刺を差し出してきた。名刺には印刷された仕事携帯番号の下に手書きで彼女の個人携帯の番号が記されていた。俺は驚き、いや何か昨日は最近色々あったから弱気になってて思わず愚痴ってしまって…でも大丈夫です。もうオヤジだから、こんな事には慣れっこですからと応えた。彼女はそうですか。良かった。元気出してくださいね。でも何か話したくなったら本当に電話くださいと言って名刺をふたたび差し出す。俺は微笑んで、有難うございます。じゃあこれは何かあったときの為にお守りで大事にします。と応える。彼女はにっこりと笑うとお仕事の邪魔してごめんなさい、お仕事続けてください。じゃあまた。と言って通りに歩を進めた。俺はその後ろ姿を見送りながら何十年ぶり、いやもしかしたら初めて他人から受けた優しさに心が温まるのを感じた。次の日曜日俺は久しぶりにバイトが2つとも休みで完全休業日だった。朝からコインランドリーに出かけて溜まった洗濯をして久しぶりにアパートの窓を開けて、万年床の布団を干した。部屋を掃除して、久しぶりにスーパーに行って飯を炊き、カレーを作って食った。半年ぶりにまともな飯を食った気がした。外は快晴だった。俺は冷蔵庫にマグネットで留めた彼女の名刺を眺めた。浅岡佳江。手書きの番号を指でなぞってみる。彼女に電話する勇気も無いが、それでも世の中で俺を気にしてくれる人が居ると思うだけで幸せな気分になれた。俺の携帯が鳴った。着信はもとの会社の同期の男だった。俺はどうせしみったれた話にしかならないので会社をリストラされて以来、同僚の着信は無視を決め込んでいたが、何故かその時は出てみる気になった。電話の声は同期入社で俺と同じく最後まで会社に残った森田からだった。俺が電話に出ると、おー出た。やっと出たよと明るい声がした。元気か?と尋ねてくる。実は俺、再就職がやっと決まってさ。今の仕事場でもう1人俺みたいなヤツを探してるんだよ。お前まだ牛丼屋行ってるのか?話だけでも聞かないか、今日これから出てこられないかというものだった。俺は牛丼屋、弁当屋のバイトに疲れ切っていたし、年齢の事を考えるとこのままバイトでは不安もあって森田の話を先
...省略されました。
20番さんにハゲしく同意。ボブ・ディランだって小説じゃなくて音楽(詞)でノーベル文学賞を貰ったじゃないか。長い前戯の好きな女もいれば、長い前説も厭わない読者もいる。全てはテクニック又は内容次第。さぁ、ヘタレは退場しませい。