廊下から、カツカツと、ヒールの音がした。
程なく、「こちらです」と店員の声が聞こえ、
下駄箱に、靴を入れる音がした。
2人の会話は何もない。
小上がりから、半畳の個室のふすまとの間、
夫である彼は、どんな心持なんだろうか?
相対する、私の率直な気持ちは、
彼を脅して、彼の妻を身請けするのに、
身体検査をする、男の気持ちににも似た、
ある種、優越感の様な気持ちにさせられる。
「こんにちは、お待たせしました」
男の声がしたと思うと、同時に、女性の甘い香りが
戸口に拡がった。
白地のワンピースに、今日のさんさんとした
陽の熱をかすかに帯びた熱量と、艶やか過ぎない
ピンクの花柄模様が、何とも彩を持っていて、
そこから、しなやかな、足首から、キュット
肉付きの良い伸びやかさに、黒いストッキングが
セクシーに包まれていたのだった。
「妻の、怜です。こちらがドールさん」
夫が続ける。「怜、ごあいさつして」
初めてで、緊張と相手を訝る瞳は、
少しだけ諦めににも似た表情と、自分より20歳も
年上の男と、自分の判断ではなく、夫の言うがままに
会わなければならないこの瞬間に、戸惑う瞬きを
していた。
夫婦並んで着座して、お互いが、気まずさを持ち
つつも、夫は何か楽し気で、これから起こる
シナリヲ通りに事が運ぶだろう思いに笑みも
でるが、時折、妻の表情を凝視するのは、早くも
嫉妬し始めているのかもしれない。