俺は美奈のいたずらっぽい提案を了承し、店内に戻ると忙しいそうにバーカウンターで働いている高橋に再度開店の祝いの言葉を掛けてこの辺りで切り上げると伝え、斉藤美奈が外に居るが会いたく無いのが店内に居るから鞄を取って来てくれと頼まれたと伝えた。高橋は店の外に視線を向けるとベンチで高橋に手を振る美奈を確認し、俺に美奈のハンドバッグをカウンターの下から取り出して渡して寄越した。俺はカウンターの外に出て礼を言おうとする高橋を制して頑張れよと伝え美奈のハンドバッグを持って店外に出た。美奈にコレで間違いない?と尋ねると美奈は有難うと言ってニッコリと笑った。美奈は俺からハンドバッグを受け取るとじゃあちょっとカッコいいバーに行こうかと楽しげに言う。遠くは嫌だよ。歩くの面倒だから、この辺りにしてよと俺が言うと大丈夫近くだからと俺の手を引いた。知ってるクアトロって店。俺の手を引き先を歩く美奈が振り返り聞いてくる。何度か友人に連れられて何度か行ったことがあるこの界隈では老舗にあたるバーの名前を美奈は口にした。俺は知ってると答えて美奈の歩調に合わせて歩く。駅前の繁華街に向かって歩き出した俺たちの背後から美奈!と声が呼ぶ。俺たちが振り返ると店の前にスーツ男が立っていてこちらにまさに走りだそうとしていた。スーツ男は俺たちに走り寄ると美奈、帰るのかよ!と詰めよった。美奈は肩をすくめて、ごめんね先に帰る。とスーツ男にあっさりと告げる少し話そう。あのまま何も話して無いじゃないか俺たち。スーツ男はかなり興奮した様子で美奈に詰め寄っている。離してよ!美奈が声を荒げる。俺は流石に黙っていられず声を大きくしている2人の間に入った。俺はスーツ男に一旦、手を離そうよ彼女嫌がってると言うと、スーツ男は目を見開いて俺に向き直り、オタクには関係無いでしょ?黙っててくれる?と声を荒げた。俺に身体をグッと寄せて威嚇するような態度のスーツ男の腕を引っ張って美奈が分かったよ。話そうよ、ここで。梅ちゃんごめん。先に行ってて話終わったら行くから。と俺に言う。俺が興奮が収まらない様子のスーツ男を見て、美奈に本当に大丈夫?と尋ねると、スーツ男が俺に何か不満を言い始めたが、それを制して美奈が後から行くから先に行って待っててと叫ぶ。俺は今、俺がここに居ても事態を混乱させるだけだと感じて美奈に分かった。とりあえず先に行ってる。気をつけてと2人を残してその場を離れてBARクアトロに歩き出した。俺はBARクアトロのカウンターの端に座った。店内はまばらに人が居る。老舗のバーは先程まで居た高橋の店とは対照的な静かさでピアノ曲が微かにBGMで聴こえていた。俺はカウンターで2杯目の水割りを口にしていた。残して来た美奈が心配だ。あれから15分は経っている。俺はあの場では俺が居なくならないと収まるものも収まらないとその場を離れたが、激しく後悔し始めていた。何かあったのでは無いか、スーツ男は見るからに興奮すると手に負えない類いの男に見えた。若しくは意外と焼け木杭に火がついてのパターンだろうか。俺は2杯目の水割りを飲み干すと時計を見る。あれから30分近く経っている。馬鹿馬鹿しい。おおかた痴話喧嘩の続きをやっているのだろう。それに会ったばかり15分程話しただけの今日会った女だ。そこまで心配する義理は無い。俺はカウンターで静かにグラスを磨いている初老のバーテンダーに会計を頼む。梅沢様ですか?バーテンダーが俺に尋ねる。俺は名前を呼ばれた事に驚いていると、今斉藤さんから連絡があって、カウンターで飲んでいる梅沢さんという男性が帰ろうとしたら引き止めてくれと。俺は苦笑いして、バーテンダーに斉藤さんはこの店に良く来るんだねと尋ねる。バーテンダーは微笑み、良くご利用頂いていますと答えた。俺はそれにしても、待たせ過ぎ。今日はこの辺りで退散します。彼女がもし来たらよろしく伝えてくださいとバーテンダーに伝え勘定書の金額を渡して席を立った。席を立ちカウンターから離れたとき、背後から帰っちゃうんだ。冷たいのと美奈の声がした。振り返ると俺の肩に手を置き、ごめんなさい待たせて。問題は解決。少し手間取ったけど。駄目?ちょっと付き合ってよと手に少し力をいれてくる。俺はカウンター席に腰掛け直す。横のカウンター席に美奈がふわりと腰掛けて、何から話そうか?満面の笑みで俺にグラスを上げる仕草でおどけて見せた。
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