俺には3ヶ月程前からセフレのおばさんが居る。
出会いはバイト先の飲食店の裏路地でおばさん2人が宗教の勧誘をしていた時。
俺はバイトの休憩や暇な時はオーナーが裏で煙草吸って来て良いよと言われた時に裏口から出て裏路地の駐車場の角で煙草をふかしてる。
最近、駅前の放置自転車の取締りが厳しいので店の裏通りは自転車置き場の様相で通勤通学の人々の自転車で溢れている。
その自転車の持ち主を狙って宗教おばさん2人組は声を掛けていた。おばさん達の作戦は巧妙で重なり合う自転車から自分の自転車を取り出すのに苦労している年寄りや、取り出す際に周りの自転車を倒してしまった女子高生が自転車を引き起こしてるのを手伝い話し掛けていた。
俺はその光景を煙草を吸いながら眺めていた。何日か連続で勧誘姿を見たが、その日はおばさん達が自転車のところに居なかったので全く油断して自動販売機に持たれながら駅前の方をボーっと眺めていた。
そんな全く気が抜けていた俺の背後から、こんにちわと声が掛かり振り返ると地味な格好のおばさん2人が立っていた。
俺は唐突に湧いて出てきたおばさん達に虚を衝かれた状況で少し慌てた。
2人組は1人が背の高いロングヘアーの痩せギスの50代のおばさん。もう1人は背の低い色白のショートヘアのぽっちゃり気味の30代後半って感じのおばさん。2人とも濃いグレーのスーツ姿で保健の勧誘員を思わせる。
あっ!あのおばさん達だと瞬時に思ったが、全く隙を突かれて差し出されたパンフレットを俺は受け取ってしまった。
ロングヘアーが俺に、いつもここで喫煙されてますよね。俺は携帯灰皿を使用していたものの往来で喫煙している後ろめたさもあり、瞬時に煙草を消しながらすみません。と謝っていた。
ロングヘアーはいえ、煙草を吸うなって注意をしたいんじゃないんです。良くここで喫煙されているんで仕事でストレスが溜まってらっしゃるんだなと思って。お仕事大変なんですか?と言ってきた。
俺はいや、そうでも無いです。と答えたが2人組は微笑みを浮かべながら、大変ですよね。今はコロナでどのお仕事もとか、最近は煙草が吸えるところが少ないから喫煙なさる方は大変ですよねとかバンバン話し掛けて来る。
俺が何か答えるたびに2人で揃って大きく頷き、相槌を打ってくる。俺はもともと押しに弱い。
2人組のペースに巻き込まれパンフを開いてワケの分からない話を2分程聞く羽目になった。
2人のワケの分からない話が一息付いたところで俺は腕時計を見て慌てた芝居をしながら店に戻らないとと別のパンフを取り出そうとしているショートヘアの方に言って店に戻ろうとすると
ショートヘアがお仕事は何時迄ですか?と聞いてくる。咄嗟だったので俺は馬鹿正直に5時迄ですと答えていた。
ショートヘアはニッコリと微笑み、パンフを取り出すと俺に差し出し、お仕事頑張ってくださいと言った。
俺はそれを受け取って、有難うございます等と答え小走りで店の裏口に戻っていった。
店に戻ると2冊も宗教の小冊子を手にした俺を見てオーナーが爆笑しながら、気をつけろよタケちゃん、お前は気が優しいから漬け込まれるぞ、来週辺りスーツ着てパンフ配ってるんじゃねーか等と揶揄われた。
その日はコロナの影響で始めたケータリングの注文が沢山来て、俺は仕事に追われ気が付いた時には終業時間を30分程超えていた。
オーナーがタケちゃん悪かったな。有難う、もう上がってくれと言うので俺は簡単に着替えてタイムカードを押し、オーナーに挨拶して裏口から店を出た。
裏口から出たところに、さっきのショートヘアが立っていた。俺と目が合うなりニッコリと微笑みお疲れ様でした。と言う。
俺はどうも。と答えた。
これが今のセフレおばさん、直子との始まりだった。