俺と佳津子との出会いは落語みたいなそれだった。30代に入った頃、まともな同級生達は家庭を持ち、家やワンボックスカーのローンに追われているのに、俺たち3人は高校時代を忘れられない3バカトリオ。
それこそ落語じゃないが宵越しの金は持たないとばかりに貯金もろくにせず、毎晩の様に夜の街に出かけては飲み歩いていた。
その時も馬鹿3人集まり、いつもの安居酒屋で馬鹿話をしていた。ところでお盆休みはいつからだと言う話になり、例年多少3人の休みが食い違っていたが、その年は暦通りでほぼ3人の休みが一致した。
俺達はたまには学生時代の様にどこかに3人で出かけないかという話になった。それぞれがどこが良い、あそこが良いと口々に言うが30を超えた男3人の夏休みの旅行は、もう海に行ってナンパという歳でも無いし、かと言って男3人で観光地巡りというのもという事でなかなか決まらなかった。
皆がうーんと考えこんでいるので俺は笑い話のつもりで、その前の年に出張で出かけた地方の鄙びた温泉旅館での経験を話した。
俺は仕事でその旅館に泊まった。男1人、正直言って寂れた温泉地など泊まる気はなかったのだが思った以上に仕事が手間取り、電車の乗り継ぎの悪い地域で東京に戻れなくなり、仕方なくスマホで調べて近所の旅館に電話をして、検索画面の1番上に出てきた温泉旅館に泊まった。
建物は古いが清潔にしてあり、こじんまりとした旅館。家族経営に毛が生えた程度という感じだったが、旅館で働く人達もキビキビと動いて感じが良い。
俺が旅館に入ったのは結局7時近かったのだが、直ぐに夕飯の支度をしてくれた。それにも関わらず豪華では無いが品数が多く、何よりどれを食べても旨い夕食に俺は大いに満足した。俺は夕飯を平らげると夕飯を下げに来た中居のおばさんが自慢していた旅館の風呂に入った。
確かに旅館のおばちゃんが自慢するだけの事はある。半分が露天風呂になった石造の立派な風呂で俺は久しぶりに月を見ながら手足を伸ばして風呂に入った。
宿泊客は平日ということもあり俺だけなのかと勝手に思っていたが、風呂を出て女風呂の前を通った時に中から女性客数人のはしゃぐ声が聞こえてきた。俺以外にも客が居るのかと思った程度で帳場に行くとフロントの禿頭のいかにも人が良さそうな小太りの主人に声をかけられた。
お仕事でこちらに?と尋ねてくる。
俺がええ、そうなんです。本当は今日中に東京に戻ろうかと思ったんですが遅くなってしまって会社に連絡したら認めてくれたんで、ゆっくりする事にしました。と答えた。
俺はちょっとだけ飲みたいんだが、この辺りに何か居酒屋でもスナックでも無いか?と尋ねるとタクシーで20分程行けば数軒あるんですがと主人が答える。
時間も時間だし、小一時間かけて呑みに出るのも気が引け、俺は仕方なく部屋で酒を呑んで早めに寝る事にした。俺はビールを数本追加で頼み部屋に戻った。
部屋でテレビを見ていると中居のおばさんがビールと残り物ですがと漬物を鉢に入れて持って来てくれた。
親切な中居のおばさんが仕切りに話しかけてくるので俺はテレビの音を下げた。すると部屋の障子の方から女性達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
中居のおばさんが、ごめんなさいね。ここが今、空いてる部屋では一番大きいんですけど裏が女風呂で団体さんが入ると少し声がうるさいですねとしきりに俺に謝る。
俺はいや1人だからかえって賑やかで良いですよと答えた。中居のおばさんはじゃあ、ごゆっくり私9時までは居ますから、追加が有れば呼んでくださいと言って部屋を出て行く。
俺は暫く1人で呑んでいたが、障子から胸綺麗ねーとか、色が白くて良いなぁーなどと女達のはしゃぐ声が気になり障子を開けてみた。
障子を開けると窓一面に生垣のように木が鬱蒼と生えている。細かい枝が無尽に窓を覆っているのだが、枝の隙間から女風呂の光が漏れている。俺は比較的大きな枝の隙間から中を覗くと女風呂が見えた。
俺と歳の変わらない中年女性が3人、湯船ではしゃいでいるのが見える。俺は意外な楽しみを見つけ中年女性の三者三様の裸を見ながらビールを飲んだ。
そんな話を3バカトリオの飲み会で話し、あの旅館に行って女風呂覗きながら飲まないか?と冗談を言った。3バカトリオの今は小さな土建屋をやってる永田が、それ良いじゃん!と言い出す。
都内で食品メーカーに勤めている森田が、それ見てぇーとゲラゲラ笑った。俺がそれ以外に何にも無いぞ、ど田舎だと言ったがそこが良い!むしろそこ以外に俺達行くとこ無い!と勝手に盛り上がり、馬鹿な話だが、三十歳を超えた馬鹿な男3人で女風呂を覗きながら呑みを目的に夏休みの旅行をする事になった。
そんな馬鹿な男の3人旅の旅先のその旅館で主婦仲間と温泉旅行に来ていた佳津子と出会う事になった。