読んでくださってありがとうございます。 何より励みになります。 ただ、また少し長くなりますが、すみません。『マサト君、ねえ、正人君、どうしたの』大げさではなくて、湖の底から澄んだ声が立ち昇って来るように思えた。「えッ」 俺は心配そうにしているたか子さんを見た。「えっ、じゃないよ。コーヒー淹れてくれたと思ったら、何かボーとして、話しかけてもなにも答えてくれないんだもの。心配したよ。」「いや、その」 まさか、たか子さんのことを押し倒して、思い切りセックスすることを考えていたなんて言うわけにもいかず言い淀んでいると「疲れているの。お仕事、力仕事と聞いているし、マサト君大卒採用だから何かと仕事振られるの?。それとも・・・。」 そこでたか子さんは一旦言葉を切って、俺のことを真っ直ぐ見てきた。 その真剣な目に見つめられ、俺は思考力を失ってただ見つめ返すだけだった。「うちの雄介がマサト君に教えられてから、監督やコーチから褒められることが多くなったと言っているの。 それに勉強もマサト君から教えてもらって、近頃では家でも勉強して学校行くのも楽しそうなの。 そんな子供の姿見るのは親としてとても嬉しいことなんだけど、マサト君の好意に甘えすぎて大きな負担をかけていたかもしれない、て思ったんだけど。」 俺は、俺のいわば邪念を誤解して自分を責めているたか子さんに申し訳ない気持ちになった。 しかし、俺はここであやふやにしないでたか子さんに対する自分の気持ちをはっきり伝えようと決心した。 もしかしたら、これから会えなくなるかもしれない。 それどころか会社だって辞めることになるかも、といった考えも浮かんだが、このままあやふやな気持ちのままでいることは、少なくとも自分に対する裏切りのような気がしたからだ。 俺はたか子さんが見えないテーブルの下で親指を思い切り人差指に食い込ませた。 痛みが感じられ、俺は現実世界にいることを確認した。『夢の世界じゃないんだ。これから自分の言うことは、たか子さんに記憶され、自分の行動がもしかしたらたか子さんにとって一生拭いきれない傷となるかもしれない』と思ったが、その責めを受けようと思った。 俺は大きく息を吸い込んでゆっくり吐き出した。 少し気持ちが楽になったのを、今でも覚えている。 俺はゆっくり話し出した。「たか子さん。俺は雄介君に野球や勉強を教えるのに少しも負担に思っていません。 というか、俺にとっては今一番の生きがいみたいになってます。 雄介君は、素直な子で野球にもそれに勉強にも真っ直ぐ取り組んでいる素晴らしいお子さんです。 野球でも勉強でもとても教えがいのある子ですよ。」 ただ、もうはっきり言います。 雄介君に野球や勉強を教えることが、今の自分を支えていますが、そのために、俺はここ2,3か月ほどぐっすりと寝られない毎日なんです。」 俺の言ったことをたか子さんは整理出来ないようだった。「御免なさい、マサト君。今言ったことがどういうことかわからないんだけど。」 たか子さんは、心配というより少し困った表情を浮かべた。「俺は、雄介君に野球や勉強を教えることで、何度かお宅にお邪魔しましたが、その時明るい笑顔を浮かべて迎えてくれる女性を私は好きになってしまいました。 俺も今は23歳なので何人かの女性と付き合ったことはありますが、今好きな女性は、これまでの誰より愛していると自信をもって言える方です。」 息を継ぐことなく、俺は一気に言った。 その時の俺の気持ちは、『ああ、ほんとに言ってしまった。こうなったら行くところまで行くしかないな。』といったところだった。 たか子さんを見た。 たか子さんは、俺の言ったことについてきていないようだった。『そんなにきれいなんだから、俺の気持ち少しは察してよ。』と俺の思考も少し混乱気味になった。 2人の会話が止まった。多分十数秒位だったろうが、その数倍の時間に感じられた。「こんなおばちゃんに、何言うと思ったら。」たか子さんがゆっくりと口を開いた。「それに、工場行っている友達いるんだけど、マサト君は大卒風吹かさないし、みんなに好かれて、身長も高いハンサムな男の子だって言っていたよ。『そのころは「イケメン」という言葉はなかった。』 工場の若いきれいな女性がみんな話題にしているって聞いているよ。 それから、私の年齢知っている。もう37歳なの。 マサト君とは一回り以上も上だし、学歴だって高卒の田舎の信用金庫に勤めていた田舎者。 夫と子供がいる、人の妻なの。10年以上も前に結婚しているの。」 真剣に言うたか子さんは魅力的だった。 同時に俺はこれと同じ場面を夢の中で何度も見たように感じていた。
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