その人は突然、俺の目の前に現れた。
まず簡単に俺の状況を説明します。庄司智彦(26)大手総合スーパー正社員。施設設備担当。配属店舗:スーパー〇〇 〇〇店 ※1階が食料品売り場 2階が婦人服、子供服、3階がゲームセンター、ファーストフード店等が入ってる、主婦や中高生が好むタイプのやや大きめの店です。
その日、俺は3階のゲームセンターのメダルコーナーの担当が、インフルエンザにかかったという事で、上司から、「昼から〇〇店いってくれるかー」と、俺はその担当が不在である1週間を、臨時でメダルコーナーで立たないといけなくなったのだ。
もともと、少ない人手で切り盛りしている会社だし、欠員がでれば他の社員が埋め合わせしなければならない状況ではあっったのだが、普段、車で様々な店舗の設備管理で回っている俺が、いくら設備課が暇な時期だからとはいえ、まさかゲーセンのメダル交換の担当をやらされるとは、俺も会社でまともな評価はされていないんだな。と、思った。
メダルコーナーの仕事とは基本的には接客であった。ゲームセンター内で使える銀貨をお客さんの目の前で現金と交換するために、カウンターに立ち尽くしているのがメイン業務である。もちろん社員の俺は、そんなバイトの仕事だけをしておけばいいのではなく、カウンターに立ちながらも、他の書類に目を通したり、せっかく〇〇店にいるんだから、普段できてない事(設備の点検とか)を片付けとけ。というのが上司の指令でもあった。
それは既に初日からの出来事であった。
俺が3階ゲームセンターコーナーのカウンターの中に入り、ゲーム機の点検表の書類等に目を通して、いちおう社員らしい事をやっていると、異様な光景が既に俺の視界の中に入っている事に俺は気が付かなかった。
その異様な光景に気が付いたのは、ゲームコーナーでの臨時配属の1日目、午後13時くらいになってからの時だった。
(あれー、あの人、まだずっとゲームやってんな・・・)
というのも、俺は開店と同時の10時にカウンターに立ちだしたのだが、同じく開店と同時にその主婦らしき人物はゲーセンに現れ、メダル落としゲームを始めた光景は視界の中に入っていたが、あれから3時間、ずっとメダル落としゲームをやり続けているのである。
(よく3時間も同じところに座れんな・・w)
まぁ言い換えてみれば俺だっていくら仕事とはいえ、7時間ちかく同じカウンターという場所で立ち尽くしているのだから、この主婦にとってはこのメダル落としゲームが好きで、3時間でも5時間でも座れる・・のだろう。くらいにしか思っていなかった。
しっかしどうみても普通の主婦っぽい人物が、ゲーセンに入り浸って家の仕事はしてんのか?などとどうでもいい邪推までしている暇な俺だった。
実はこのメダル落としゲームをしている主婦というのは、このゲームセンターの中での名物キャラのような存在であり、他のバイトに聞くところ、「そうっすね、あの人、1日3時間~4時間くらいは開店からずっとメダル落としやってるんですけど、、最初に現れてからもう2週間近くになるんじゃないっすかね」と言っていた。
その該当の主婦っぽい人物だが、外見は普通の小柄な感じ。流行りの細い黒ジーンズに落ち着いたグレーのトレーナーのような服を着ていた。髪型も少し茶髪で後頭部でゴムでくくった感じのシンプルな髪型。年齢は30代中盤くらい。顔は可愛い感じの人だった。いまでも普通に可愛いんだから、きっと10代、20代の時はかなりモテただろうと思う。
そんな、一見、普通に子供でもつれて買い物したり、ママ友と一緒にランチしたりしてそうな、、、、そんな女性が、いったい何をどういう事情があって、朝からずっとメダル落としをしているのか。
なんて、今でこそ分析しているが、初日はこれといって興味も何もなかった。
そして夕方14時頃、バイトが言ってたようにその女はメダル落としゲームを中断し、その日の所持していたメダルをカウンターに預けにきて、どこかに消え去っていくのであった。
だが3日目に転機が訪れた。
それは俺自身、カウンターに立ち尽くしている事にいい加減、暇と限界を感じ、適当に理由をつけ店内を巡回して時間潰しをするためにウロウロし始めた時の事だった。
そして時間が14時という事があって、俺は巡回のついでに遅めの昼飯を食うために、同じく3階にあるファーストフードコーナーの鉄板焼き売り場にて、大盛やきそば450円を注文し、番号札をもって待っていた時の事である。
すると、すぐ俺の背後にあの、メダル落としゲームの女が立っており、同じ店できつねうどんを注文していたのである。
(お、、あのメダル女だw)
すると目があってしまった俺とその女は、俺は従業員という立場から、(いつも店に来てくれてるお得意さんだからという理由で)「あ、ども。」みたいな感じで軽く会釈をした。というかここまで至近距離で目が合ってしまったので、さすがに無視する訳にはいかなかったというほうが正解か。
すると相手も「こんにちは」と答えてきた。
俺はこの挨拶をかわすだけで十分だったが、相手の方から「お昼休憩ですか?」と質問をされてしまったのである。そして「そうですね、ちょっと遅いですけどw」と会話が成立していき、「いつもカウンター立ってますよね。」「最近こられたのですか?」等と、どうやら相手は「挨拶だけで」終わらせるつもりはなかったのだと思う。
(なんか、かわってんな・・・・この人)
俺はなぜか直感めいたもので、この人物が尋常ではない人である事を薄々と感じた(だからこそ、肉体関係まで発展していったのだが)
そしてそのメダル女は、ずうずうしくも俺が座ったテーブルに自分もきつねうどんもってきて、相席という形でメシを食う事になったのである。
その相席の日の翌日から、メダル女はメダル落としゲームをするだけでなく、カウンターごしに俺に個人的に話しかけてくるようになったのだった。
他のバイト連中からも「あの人に話しかけられてるwwww」と、話題になっていた様子だった。
だが、他のバイトが揶揄する程、このメダル女はそこまで異常な人物でもないのではないか。と印象が変わってきたのも正直な感覚である。
確かに、最初はメダルゲームに没頭している後ろ姿、そして昼メシ時にあつかましくも相席してくる積極性など理解に苦しむ点はいくつかあったが、こうして話してみると、見方さえ変えれば、人なつっこい普通の奥さん(相手が人妻であれば。この時は何も知らない)とも考えられるのだ。
それは俺が、「継続する性質の話題」をしてしまっていた事の他ならない。
適当な対応だけしているのなら、最初は少し挨拶をしても自然と疎遠になっていくのかもしれないが、俺にも原因があるのだろうけど、「youtubeでメダル落とし プロ」って検索してみてください。かなり神業の動画が投稿されてますよ。みたいな、「翌日に続く会話」をしてしまっていたのも大きな原因だと思う。
だからこそ、「昨日、教えてもらった動画みましたよ」と相手が話しかけやすい雰囲気を作ってしまっていたのかもしれない。
そして7日目、いつもと同様、カウンターにいる俺に話しかけてくるメダル女に、俺は「明日からもう来ないんですw そもそもインフルエンザの欠員で補充されてただけなんでw」と俺は本来の業務に戻る事を相手に伝えた。
するとメダル女は「え、、そうなんですか・・・」とショックを覚えたようで、(この時のあきらかな残念そうな顔がかなり印象的だった。だが、この短時間で俺はこのメダル女からなにか無条件に信頼を得るような事も何もしていないはずだが、、とも思った)
するとメダル女は、「もしよかったら連絡先交換してもらってもいいかな。いろいろyoutubeの事とか聞きたい事もあるので」といってくるのである。
(youtubeの事をきく? きくって何?質問がおかしいだろ。何をいってんだ・w)と中高生でもわかる見え透いた本音、つまり関係を維持したいという本音を晒しだしてきたのである。
「まぁ、、いいですけど」と俺は(やべぇな。。ストーカーとか、そういう系じゃないだろうな・・・)と消えかけていたメダル女への疑念がMAXで盛り上がったが、状況というか流れからして無碍に断る事もなきない感じになっていた。
そして俺たちはその場でQRコードをつかてライン交換をしたのである。
この時、俺には彼女もいたし、そもそも30中盤(の人には失礼だが)一回り近く離れた女性と個人的に連携を保てたという事に特別な喜びはなかった。
予期せぬ流れからか、正体不明のメダル女との連絡先を交換してしまい、、もともとのハッキリとものを言えない性格からか、メダル女からのメッセージに返事をしてく俺は、ズルズルと相手の術中にハマりかけていっているのであった。
そしてメダル女は、その最後の日からメッセージアプリを使いながらの会話の中で、自分が結婚しているが別居している事。経済的に苦しい事、子供はいないこと、時間をもてあましているが、これといって何か建設的な時間の過ごし方を知らない事、、、等を訴えかけてくるのであった。
はっきりいおう。一言でいって「欲求不満」な状態であったのだ。(結婚してなぜ別居しているのかとかはその時は知らない)
それから「直接会って、相談を聞いてあげる」という体で、俺はメダル女の自宅へと招かれてしまったのである。
招かれた後の事は次回書いていこうと思う。