その日は、仕事帰りの時間が早く、8時前と普段より早く、自宅最寄り駅に着いた。時間も早いし、馴染みの居酒屋へ寄った。そこは個人の店で、大将とは何かと気が合い、競馬やゴルフの話しで盛り上がり、月に一度はゴルフや競馬に出掛ける仲だ…そんな大将を兄貴のように慕って、今日もバカ言って楽しい酒でもと寄ったのである。ところが、その日は珍しく店内盛況で、バイトの佳子や厨房のカッチャンもテンパリながら忙しくしていた。この店はカウンターがあり、カウンター内が厨房、カウンター席の後ろが通路で、座敷にテーブル席となっていた。私は1人客である、それに、いつもの席があり、それは店内奥にあたるカウンター席の一番奥の席である。別に常連ぶってる訳ではない(席の向いに、こわもてで、やたら声のデカイ大将がいる、1人で来た客は敬遠する居心地の悪い席なのである)私は店内満席かと思いながらも、いつもの、その居心地の悪い席に目をやった。ここで余談だが、私にとって、この席は、奥の壁にもたれながら大将と話す、気心知れた席で、そこから見る店内、大将の仕事姿は大変心地良いのだ。それと、もう一つ大きな理由がある、それは壁の頭上に、競馬で初めて買った競走馬の写真である(ここで馬の名前を出すと場所が特定できるので伏せさせて下さい)この写真を見る度に、引退後の競走馬を北海道まで写真撮影しに行った事を思い出しては、酒が入ると感慨深い写真となってくるのである。話しは戻って、その席は空いていた、私を待っていた…いや、そんな気がした。いつもの様に、大将が出す料理と酒を飲みながらバカ話でもって席に向かったが…今日は何か勝手が違った。私の席の手前、左手の隣の席の女性と大将が嬉しそうに話をしていた。なにか、楽しい話しが盛り上がり、話し込んでいる様に思えた。席に着いた私に…よっ!っと何か照れながら遠慮がちに挨拶し、いつもの生ビールを出してくれた。グッとジョッキ持ち、飲む私を指差して、隣の女性に私を紹介しだしたのである。大将から紹介されて無碍にする必要もないと思った私は、一通り挨拶をした。その時、私の方へ向けられた女性の顔は大変綺麗で、大将が照れくさそうにしていた意味が分かった。私も照れるような…非常に動揺したのだけは覚えている。その後、彼女も1人客らしく、大将と彼女と私…楽しい会話が弾んだ!その中で、彼女はこの駅近くに住み、年は30才既婚者で、デパートにある大手化粧品の美容部員だと言った