日曜の午後、R駅の近くに来ていた。B市に行く友人を見送るためだ。新
聞と週刊誌に、缶ビールを渡して改札口で別れた。
駅の出口に向かって歩いていると、山中さんが前を歩いている。雑踏の中
で、気付かなかったのだが、山中さんもご主人を見送りに来ていたのだ。
「やあ、山中さん。」と声を掛ける。
「あら、主任さん。」驚いたように振り向いて応える。私は職場では、主任
さんと呼ばれている。
私が「友達を見送りにきてたのです。」と言うと山中ルミは、
「主人が、金曜の夜に来ていたんです。いままた帰ったんですの。」と言
う。
「あ、そうだったの。」
「はい、ああそうだ、前に酔いを覚ますのにお世話になったので、お茶でも
ごちそうしたいわ。」
中山ルミは、そう言って私を出口の方に促す。
「いやあ、お礼なんて良いですよ。」
「でも、せっかくだから。」
と半ば強引に誘う。
「ほんとに良いんですよ、気を遣ってもらわなくても。」
「気を遣うだなんて、少しだけお礼がしたいだけなんです。」
「そう、じゃ、せっかくだから、お言葉に甘えようかしらね。」
私は、そのあと別段の用事も無かったので、山中ルミについていくことに
した。
駅を出ずに、駅の構内にある何軒かの喫茶店やレストランのうちの一つを
選んで二人で入った。
この駅は、職場からも私の家からも離れたところであるので、知った者に
出会うことはない。
そこでコーヒーとケーキを頼んで、向き合った。
こうやって、向き合うのは面接の時以来だ。その時は、所長が同席してい
たが、今日は1対1だ。
薄い水色のプリント柄のTシャツにキャミソールドレスを着ている。間近
に観ると整った顔をしていて、もっと身長があれば、きっと人目を引く見栄
えがする感じだ。
本人はもう若くないと言うが、私のような中年の男からすれば、36歳は
若い。若さの魅力が、私の男の本能を擽る。
「ほんとに偶然でしたね。」
「ほんとですね。今週は久しぶりに主人が帰っていたので、駅まで送りに来
ていたんです。それが主任さんに会えて、思いもよらず、ラッキーって感じ
です。」
笑いながらそう言う。お世辞とも、本気ともわからないが、いい気持ちに
はなる。
「ご主人とは、しばしのお別れでさみしいですね。」
「いえ、そんなことは。もう十年以上もたつと、新婚の時のような気分じゃ
なくなるわ。」
山中ルミは20歳の時12歳上のご主人と結婚して、15年余りたつそう
だ。その間ご主人の浮気等でずいぶん苦労をしたそうだ。
「こんな若い奥さんをもらっておいて、浮気とはよくおもてになるんです
ね。」
「まめなだけよ。それにもう私も若くないから。」と言う。
キャミソールが包んでいる、ほっそりとした肢体を、思い浮かべる。
会話をしながら、山中ルミの小柄で且つコケティシュな若い瑞々しい裸を想
像する。
「さあでましょうか。」
やがてそうきり出して店を出ることにした。
「わたしが誘ったのだから、私にごちそうさせて。」
と言って山中ルミは支払いをしようしたが
「いやいいんだよ。」と言って私が払う。
恐縮する山中ルミに
「どう、もう一件つき合ってくれないかい。」
と今度は私が誘う。
この若い女性に、日曜の午後せっかく遭遇したのだ。もうしばらくは一緒
に過ごしたいものだ。
「良いですけど。どこに連れってってくれるの。」
少しふざけるように言う。
「どこに行きたい。」
逆に聞く。
「うーん、そうね。」
少し考えるようにして、押し黙って、やがてうつむいて、
「ーーーー」
と聞こえないくらいの小さな声で言う。
「え、どこだって?」
私は聞きかえす。
恥じらんだ顔を向け、さらに小さな声で、
「モーーー。」
と言う。
「は?」とまた聞き返す。
思い切ったように
「二人切りになれるとこ。」
小さな声で、そう言って俯いてしまった。
「え、ほんとなの。こんなおじさんとで良いの。」
私は内心嬉しさを押さえながらそう言う。
山中ルミは恥しそうにうなずく。
「そうか、じゃぼくの自動車でいいかい。」
「ええ、お願いします。」
駅の駐車場に置いてあった車に乗り込む。
目的の決まった大人の二人が、気持を高ぶらせながら、山沿いのモーテルに
向かう。