「では…さっそく始めましょうか。紗季さん…旦那さんの前で下着姿になって下さい」
淡々とした声が、リビングに落ちた。
一瞬、思考が止まった。
……下着姿に、なってください。
夫の前で。
契約書の文字が、頭の中で何度も点滅する。
NGなし。
セーフワードなし。
拒否する権利なし。
それでも、体が動かない。
夫の視線が、横から私に向いている。
止めてはくれない。
止めることも、できない。
指先が冷たい。
腿の上に置いた手が、小さく震えている。
……やらなきゃ、いけない。
ゆっくりと、ソファから立ち上がった。
膝が、わずかにがくがくする。
まずは、上から。
ブラウスのボタンに指をかける。
一つ、また一つと外していくたびに、肌が空気に触れる。
男の視線が、その動きをじっくりと追っているのが分かった。
夫も、黙って見ている。
ボタンをすべて外し、肩から滑らせるように脱いだ。
ブラウスが床に落ちる音が、妙に大きく聞こえた。
次に、スカートのファスナーに手を伸ばす。
引き下ろすと、腰の周りが軽くなる。
そのまま下まで落とし、足を抜いた。
残ったのは、白いレースのブラジャーと、同じく白いショーツだけ。
リビングの空気が、肌に直接触れる。
寒くはないのに、鳥肌が立った。
両手が、無意識に胸の前で重なる。
隠そうとしているのが、自分でも分かった。
でも、男の声が静かに落ちてきた。
「手を下ろして」
……そうか。
隠すことさえ、許されないのか。
ゆっくりと、両手を下ろした。
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