野田さんお願いします
「よかった。ありがとう。紗季。例えどんな事をされても俺の愛は変わらないから…」
夫のその言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
嬉しそうに微笑む夫に手を引かれ、私は見知らぬ家の玄関を跨いだ。
契約書にサインをしてから、ほんの数日しか経っていない。
それなのに、もうここまで来てしまっている。
「ようやく決心がついたんだね…奥さん。後悔はさせないよ。まずはリビングへどうぞ…」
低い、落ち着いた男の声がした。
靴を脱ぎ、夫の後ろに半歩下がるようにして、私はリビングへ入った。
広めの空間だった。
向かい合わせのソファ。
ブラインドで遮られた窓。
間接照明だけが、部屋を薄暗く照らしている。
夫は自然な様子でソファに腰を下ろし、隣を手で示した。
私は一瞬だけ躊躇してから、夫の隣に座った。
膝を揃え、手を腿の上に置く。
指先が、自分でも分かるほど冷たくなっている。
向かいのソファに、その男が座った。
「契約書は、もう確認済みだね」
夫が頷く。
「はい。内容に異存はありません。妻も、サインしています」
「そうか」
男の視線が、私に向いた。
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