「編集長から話は聞いています。
宜しくお願いしますね?中島…果歩さん…。
しかし編集長…、あんまり貴方が畏まると彼女まで強張ってしまいますよ?
ほどほどで、お願いしますね…?」
初々しい。
まるで業界に飛び込んだ頃の自分を想起させるような果歩の振る舞いに、柔らかい笑みを浮かべながら応える。
応接にはほとんど物もなく、小綺麗にされている、と言うよりはあまり生活感が感じられないという表現が正しいだろうか。
ほとんどの時間を書斎で過ごしていることを想像させるのも難しくは無い。
タワーマンション、そういえば聞こえも良く、実際は簡単に手に入るものではない立地、階層、造りも高級感に溢れている。
重厚感というよりはモダンでスタイリッシュという表現が似つかわしいか。
腰掛けるソファもシンプルなもの。
その前に設置されているローテーブルまた、オーソドックスな表面がガラスの1枚板の物を採用していた。
棚に立ち並ぶは処女作から最新作、もちろん有名作家からマイナー作家の物まで、恋愛小説に分類されるものはほぼほぼ網羅しているのではないかと言えるほど、綺麗に並べられていた。
その脇にも同じ棚。
しかしそちらには表面に布が掛けられており、同じ本棚のようだが、何が仕舞われているのかは分からない状態となっていた。
「中島さんにはこちらの部屋でお待ち頂く時間も増えるでしょう、これからはこの部屋では自由に寛いでくださって構いません。
女性ウケの良さそうなお菓子…、はありませんが、飲み物はある程度冷蔵庫に揃えていますので…。」
齢四十を過ぎた男。
家でも仕事に掛かる時にはワイシャツにスラックス姿だと言う。
うっすらとシャツ越しに感じさせる体躯の雰囲気。
趣味で体を鍛えることは学生時代から続けている、という話はファンの間では有名な話だった。
「良い作品…、そうですね。
ぜひ、女性視点での斬新な発想から、率直な意見までお聞かせ願いたい。
改めて、よろしくお願いしますね?」
それが果歩と男の初めての会話。
うっすらとその若い女の身体を男の視線が舐めるように滑り降りたことを、緊張する新人には気づくわけも無いだろう。
※元投稿はこちら >>