「わかりました。もう2度としません。でも……」
高橋くんがそう言って、素直に頭を下げた。
ほっとしたのも束の間、彼が一歩近づき、私の耳元に顔を寄せてきた。
「茉由は俺には逆らえない」
――あの、いつもの声だった。
低くて、少し掠れた、甘く残酷な響き。
店で首輪を握られながら、耳元で何度も聞かされた声。
「茉由は俺の言うことしか聞けないよね」「逆らおうとしても、結局俺の前で跪くしかないんだ」――
そんな言葉とともに、私を徹底的に堕とされた、あの声。
一瞬で、記憶が蘇った。
暗い部屋。
首に巻かれた革の感触。
後ろから髪を掴まれて強引に顔を上げさせられ、
「ほら、ちゃんと俺の目を見て。茉由は俺なしじゃダメなんだろ?」と嘲るように言われたときの、
全身が熱くなって、頭が真っ白になる感覚。
四つん這いにさせられて尻を叩かれながら、
「逆らおうとしても無駄だよ。結局、俺にイカされたいんでしょ?」と笑われたときの、
恥ずかしくて泣きそうになりながらも、腰が勝手に動いてしまう自分。
あのとき、私は本当に逆らえなかった。
命令されれば従い、辱められれば喜び、
最後には「もっと……お願い」と自分から懇願してしまうほどに、
彼に支配されていた。
――今、ここでその声を聞かされた瞬間、
同じ熱が下腹部に広がっていくのがわかった。
膝がわずかに震えて、息が浅くなる。
(だめ……こんなところで、また……)
理性では「会社だ」と必死に言い聞かせるのに、
体はもう、あの主従関係を思い出して、条件反射のように反応してしまう。
彼にだけは逆らえない。
彼の前では、結局私は「茉由」になってしまう。
その事実に気づいた瞬間、
恐怖と、抑えきれない興奮が同時に胸を締めつけた。
13時に会議室で……
高橋くんの低い声が、耳の奥で反響する。
(だめ、絶対に行っちゃだめ)
理性が必死に叫んでいる。
昨日、彼に触れられただけで体が勝手に反応してしまった。
あの声で名前を呼ばれただけで、膝が震えて下着が濡れてしまった。
もし二人きりの会議室に行ったら……間違いなく、私はまた「茉由」になってしまう。
彼の前で跪いて、首輪を付けられて、辱められて、
最後には自分から「もっと」と懇願してしまう自分に戻ってしまう。
ここは会社だ。
周りには同僚がいて、部長がいて、いつ誰が入ってくるかわからない。
ばれたら終わりだ。仕事も、立場も、全部失う。
34歳にもなって、こんなことで人生を壊すわけにはいかない。
でも……。
(行きたい)
心の奥底で、小さな声が囁く。
あの感覚を、もう一度味わいたい。
痛みと羞恥と服従が混じり合って、頭が真っ白になるあの瞬間を。
普通の恋愛では絶対に得られない、深い深い快楽を。
高橋くんにしか与えてもらえない、あの壊され方を。
(ただのミーティングだって言い訳できるよね……?)
仕事の話をするだけ。
新入社員に業務を教えるだけ。
そう自分に言い聞かせて、行けばいい。
でも、わかってる。
彼は絶対に、そんな“普通のミーティング”になんかしてくれない。
私も、きっとすぐに抵抗できなくなる。
耳元で囁かれたら、体が熱くなって、
「茉由は俺には逆らえない」って言われたら、もう終わりだ。
時計を見ると、12時45分。
あと15分。
行かない。
行ったらだめ。
でも、足が、すでにそわそわと動いている。
下着の奥が、じんわりと熱を持っている。
でも、私は遅れないように会議室に向かって歩いていた。
会議室に入ると高橋くんは、まだいなかった。
ふぅ、よかった…
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