「よくわかったね…。
一応、ある程度不自由のないようにしているつもりだから…。
何処もだいたい同じような高さに手すりを付けてる。
廊下も、階段も、寝室も、トイレも、浴室も。
困ったら気にせず俺のことを呼んでくれていいけど、手を伸ばせば手すりが極力あるようにはしているからね…。」
すっと久美子が伸ばした先にある手すり、それに触れた様子を見て男は話した。
「なるべく不自由のないようにしたいと思っているんだ。
快適…にはほど遠いかもしれないけど、少しずつここを自分の家だと思って、くつろげるようになっていってくれると嬉しいね…。
さ、家の中を案内しようか。」
脱いだ靴をそろえた並べる音、とんとん、と少し上がった段差に角をそろえる音が響く。
そのまま久美子の手を引いて廊下にひきあげながら、そう話し。
「玄関から入ってまずはまっすぐ廊下なんだけど、右手がリビングになる。
夕食はここで一緒に食べよう。
リビングにはソファにテーブル。
ごめんね、テレビはあんまり好きじゃなくて、おいていないんだ…。」
テレビは好きじゃない…。
そんな言葉を掛けながらも、実際は何も見えない久美子にとっては煩わしいと感じるだけのモノだろうと考え、あえて設置していない風を装っている。
「リビングに入ると右手はキッチン。
カウンターキッチンだから待ってもらっている間も話もできるよ…?
リビングに入らず廊下の右側は階段。
二階が俺たちの寝室だ。
またや住むときに改めて案内するからね…?
廊下の奥、右手の扉がお手洗い。
鍵の書け忘れには注意だよ…?
その奥に洗面所、と浴室がある。
そんな感じかな…?」
何一つ、違和感を感じさせない案内。
しかし、違和感を感じさせないのは、久美子の目が見えないから。
念の為、というようにお手洗いの施錠の話はした、しかし扉こそあるもののほぼ木枠ををくりぬいてアクリルをはめ込んだだけの丸見えになっている。
そして、施錠できる扉の脇には、鍵もなく自由に開け閉めが可能な別の扉まで設置。
もちろん、見えていればあり得ないと、苦言を呈しその場から逃げ出したいほどの造りだ。
浴室も同様。
トイレのように鍵こそないが、ガラス張り。
何もかもが丸見えの浴室をさも当然のように案内。
リビング、キッチン、廊下においては間違っても触れようのない位置にカメラが設置されており、全て男の手元のスマホで確認が可能。
いつ、どこで、何をしていても全てが筒抜けの家。
そんな牢獄へ連れ込まれた女の生活が、徐々に始まろうとしていく。
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