「あ、あぁ、おはよう…。
うん…、和葉ちゃんは見えてたんだけど、ちょっと距離があってね。
同じ車両だったんだけど、急いでて乗り口がいつもと違ってさ…。」
こちらに気づいていない風の口ぶりに、男も思わず合わせてしまう。
別に何も悪いことはしていない。
しかし近くで見ていた、あの不自然な感じ、に、どこか後ろめたさに似た感覚を覚えていたのかもしれない。
「それにしても…朝の電車は…やっぱり疲れるよな…。
知らない人間が近くにいるって言うストレスって言うかさ…。
和葉ちゃんなんか、女の子だし、やっぱり男が近くにいるのはちょっと違和感というかストレスに感じるモノだろう…?」
遠回しに、遠回しにそんな話題を投げかける。
今日の事、さっきまでの事を和葉はどう思っているのか。
何か感じているのか、逆に何とも思っていないのか…。
そして男は一歩踏み出してみる。
「痴漢とか…、盗撮、とかも怖いじゃない…?
最近は和葉ちゃん、スカートも履くようになった、って言ってたしさ…。」
親しい、という程でもないが、なんでもない会話はできるくらいの距離感。
通勤通学の道が被れば、道中を共にするくらいの関係だ。
もともとパンツスタイルの少女が、最近はスカートを履くようになったことも当然知っている。
そんな話を織り交ぜながら、懸念するように痴漢…盗撮、というワードを口にしていく。
「変なやつとか…いないか?大丈夫か?」
(怪しまれて…ないよな…?
まさか、今日撮られてかもしれない状況を見ていたのに、白々しい…なんて思われたりとか…。)
少し複雑な感情を抱きつつも、変な親心のようなものが勝り心配を口にしてしまう。
矛盾するように、ポケットの中にしまってしまった「ソレ」につながる証拠。
男はこれをどうしたいのか。
ポケットをそっと外側から握る手に、少し手汗が滲んでいる。
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