「え…引っ越し…?
そ、そんな…どうして急に…。」
珍しく久美子からの誘いがあったと思えば、どこか神妙な面持ちで引っ越しを提案される。
良い距離感を保って愚痴も零せる間柄だと思っていた。
だから仲良くなれた…と思っていたのに、急に踏み込んでくるようなスタンスの久美子に一歩引いてしまう。
「た、確かに…、不便は不便だよ…?
でも、そんな急に引っ越しなんて、お金だってかかるし…そんな都合で会社を休んだりもできない…。
それに…。」
何かを言いかけて口をつぐんでしまう雅美。
その様子は急に引っ越しを提案されて戸惑ってしまっていることもあるだろうが、理由はそれだけじゃなさそうにも見えた。
「と、とにかく…。
この先はどうかわからないけど…、今じゃないわ…。
ありがとう、気にしてくれて…。
話しはそれだけ…?
私、この後用事があるの…。それじゃ…。」
下着泥棒の相談の日とは逆だ。
今度は雅美が一方的に話しを切り上げて立ち去ってしまう。
真っ当な理由を並べたからと言って、相手がすんなり首を縦に振らないのは仕事でもプライベートでも同じかもしれない。
「…。」
(いくらなんでもそんなこと…。)
強引に話を切り上げてその場を後にした雅美はおもむろにスマホを取り出した。
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雅美の説得が上手くいかない。
そんな状況で家路についた久美子。
玄関先に見覚えのある光景が映る。
雑に引っかけられたビニール袋、半透明で中身が見えない袋には見覚えがある。
しかし付箋は貼られてはいなかった。
代わりに中には四つ折りになった紙切れが。
『余計なことはよしてください…。
遊んでほしいなら…、邪魔者を排除するんじゃなく…。
貴女自身の価値を証明していただかないと…。
分かりますか…?高坂…久美子さん…。
もっと私を楽しませてくれるというのなら…、答えを示してください…。
日付が変わるまでに、貴女が最も気に入っている下着。
それだけを、ピンチハンガーに吊るしてください。
ご近所、通行人に、貴女が履いている下着を見せびらかすように…です。
0時ちょうどに伺います。
窓はちゃんと閉めておいてくださいね…?防犯ですから。』
大胆にも男の犯行予告だった。
どんなことが待ち受けているのか、予想も難しい犯行予告。
しかし、それ以上に不思議なのは、雅美を邪見にしたことを知っているかのような口ぶり。
まさか…。
そんな想像が難しくない中、日が徐々に落ちて約束の時間へと近づいていく。
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