久しぶりの興奮、快感を得てついた眠り程心地よいものはない。
ゆっくりと覚醒していく意識、瞼を持ち上げれば見知った天井。
(思った以上に眠っていたみたいだな…。)
枕元に置いてあったスマホを手に取り、時間を確認すれば昼を少し回っていた。
半裸の身体を軽く振って起き上がると、軽く伸びをする。
視線の先には昨晩の戦利品…、それを自身の液体で白く汚して放置したままの状態。
エアコンの効いた室内では当然乾ききることもなく、生臭い独特の異臭を放ちながらも湿り気はそのまま。
ゆっくりと寝室を後にすれば、軽くシャワーに身体くぐらせるとジャージにTシャツ姿のラフな装い。
とても40が見えている男の行動、私生活とは到底思えないほど気ままを絵に描いたようだ。
「さて…。
借りたモノは、返さないと…な。」
そんな言葉を口にしながら男はおもむろに、自由なまでに使用した女の下着を手に取ると、適当なビニール袋を見つけて放り込む。
幸か不幸か、透明度の低いビニール袋は中身が何かを教えてはくれない。
袋を手に男は家を出るとまっすぐ、ソレの持ち主が住んでいるアパートへと歩みを進めた。
昨日と同じ場所…、と言っても日中、夕方に差し掛かるにもまだ少し時間がある。
不審がられない程度に周囲を散策しながら、様子を伺う。
今どき珍しいオートロックもないアパート。
玄関先へとつながるドアの前には容易にたどり着くことができた。
平日の日中…ともなれば、人の気配は感じない。
「金曜日だ…、良い週末を迎える為に頑張っている頃だろうさ…。」
在宅なら家を間違えたことにすればいいと、「いつものように」呼び鈴を鳴らす。
顔が見えないように鍔が広くて長めの帽子を少し深くかぶりながら。
「やっぱりな…。」
反応がない。
居留守、の可能性もゼロではないが、少なくとも対面する可能性はないと理解する。
そうすればにやけた口元と共に、その手にぶら下がったビニール袋をそのままドアノブにひっかけて。
外れないように一枚付箋を貼る。
『お借りしていた物、お返ししします。』
の一文。
体温と同じくらいまで上昇する気温で、外はどこも蒸し風呂状態。
そんな場所で生臭い異臭を放つ物をぶら下げてはどうなるモノか…。
(知ったこっちゃないけどね…。)
1フロアに部屋数はそう多くはない。
何より1階の角部屋という位置は、用がなければこのドアの前までやってくる人間はいないと言う事になる。
下着泥棒にとっては都合の良い位置にあるベランダ。
しかし一方でその変態的なお返し…によって世間から蔑まれる可能性を下げてくれたのもその角部屋という泥棒にとって都合の良い場所だったから、というのは皮肉かもしれない。
「機会があったら…。
また楽しませてもらいますよ…、どこの誰だか知りませんけどね…。」
そんな独り言をつぶやいて、男はその場を後にする。
雅美からの相談があった日。
久美子は同様と苛立ちから、雅美がまだ何か言いたがっているのを知ってなお、途中で話を切り上げた。
まだ何か言いたがっていた。
それは、盗られるだけでは済まず返ってくるのだと言う事。
それも、良いように使われた後で…、と言う事だったのかもしれない。
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