出分がドラッグストアに入ると想像以上に客は少なかった。
普段から混雑するようなこともないが、ちょうど午前と午後で客層が入れ替わるタイミングということだろう。
「お・・・いるいる。客もいねえしほんとうにつけてるかどうか・・・」
スマホでローターの一つを振動させてみる。
するともともと仕事に集中できていないであろう、そんな顔をしていたゆみが肩を跳ねさせ驚きの表情に染まる。
「くぅ~ちゃんとつけてるねぇ・・・いいぞいいぞぉ・・・そんじゃ~いきますかぁ」
一度ローターのスイッチをきると会計で利用するかのようにスマホを取り出したままカウンターに向かう。
「あ~すんません。あの薬がほしいんすけど~」
前回のようにゆみの背後の棚を指差しながら、声をかける。
どこかぎこちない笑顔でゆみが背を向けるとそこで再度、スイッチを入れた。
背中を向けたままにゆみの身体が何かを我慢するように小刻みに震えている。
しばらくその光景をニヤつきながら堪能するとスイッチを切る。
薬を取りカウンターに置いたところで再度スイッチを入れる。
するとカウンターの上に置いた手がギュッと握りしめられ、さらには声を我慢するように顔を伏せた。
「おやぁ・・・薬剤師さんも調子悪いんですかねぇ・・・? 大丈夫ですかねぇ・・・?」
それだけではもちろん終わらない。
出分はあえて指定した薬以外にも効くような薬はあるのか、と質問を重ねその度にローターのON/OFFを繰り返す。
(そろそろ俺だって気が付いてるだろうなぁ・・・くくっ・・・)
「どうしましたぁ~? 何か俺の顔についてますかねぇ・・・?」
当番であるゆみ以外はバックヤード。そして店内に客をなし。
そんな空間に微弱な振動音とゆみの微かな吐息の音だけが響き渡っていた。
※元投稿はこちら >>