胡々希が渡辺照の手を引っ張り壁際に連れて行き、何事か言い合いを始める。
亮平は何となくその場を離れる気にもなれず、少し離れたところで成り行きを見守っている。
何事かごねている渡辺照と静かながら激昂している様子の胡々希。
何と言ったかは定かではないが、少し大きめの胡々希の声が聞こえたと思った次の瞬間、胡々希の身体が床に倒れる。
渡辺照は何をするでもなく、その様子を見下ろしている。
「井ノ上さん!大丈夫!!」
亮平は駆け寄り、来ていた上着を頭の下に差し入れる。
「渡辺君何してるの!駅員さんに連絡して」
亮平も動転はしていたが、むやみに身体は揺らしてはいけないということは、頭のどこかにあったようで、声だけかけ続けている。
渡辺照に連れられて駅員もその場に来る。
駅員が「救急車呼びました。10分位で到着するとのことですが。」と報告したころには、周りに野次馬が半円を作っている。
来るのが遅いなと思い始めたころ、サイレンが近づいてくるのが聞こえ、サイレンが近くで鳴りやんだかと思うと、ストレッチャーを押した救急隊員が近づいてくる。
「どうしましたか?貴方は?」
救急隊員が何故か亮平に聞いてきたので、亮平は自分の身分と見ていたことを正直に話す。
「そうですか。では貴方佐久間さん、救急車に同乗してください。」
ストレッチャーに付き添い、ロータリーに降りる亮平。
促されるまま、救急車に乗り込む。
外では照も乗りたそうにしていたが、その目の前で閉じられる後部ハッチ。
数分の間受け入れ先を決めるため、無線でやり取りしていた救急車だったが、サイレンを響かせて走り始める。
車内では救急隊員がバイタルを取ったり、胡々希に話しかけたりと、忙しく動いている。
数分いや十数分、数十分だろうか走った後救急車が止まり、後部ハッチが開かれストレッチャーが運び出され、救急室に運び入れられる胡々希。
処置をするということで、救急室外のベンチで待っていると、救急室に呼ばれる亮平
医師に問われるまま、ここでも亮平は自分の身分と倒れるまでにあったことを医者に話す。
「そうですか。倒れた時に頭は強打して無さそうだし、バイタルも正常、まあ問題はないと思いますが、血液検査だけやっときます。一応今夜は泊っていただいて明日には帰れると思います。」
医師がそう話している間にも看護師がベットを運び込み、胡々希の身体がベットに移され、病室に移動される。
少しの間ベット横の椅子に座り、胡々希の顔を見ていた亮平だが、談話室へ行き、携帯電話で堂本課長へ連絡を取り、起こったことを話して、井ノ上胡々希の実家へ連絡を取らせる。
病室へ戻ると、胡々希はまだ眠っている。
※元投稿はこちら >>