「失礼します。」
堂本に連れられて、菊池電気商会の店主菊池勝利が顔を表す。
「佐久間社長、どうも。」
「私はこれで失礼します。」
そう言って堂本が出ていくと、菊池はよそ行きだった声色を変え
「よぉ、亮ちゃん。あんたの会社で会うの久しぶりだな。お姉ちゃんのいるところにまた飲みに行こうぜ。」
「勝ちゃん、あんたまだ懲りてないのか。事業なんて少し軌道に乗り始めた時が、一番足救われやすいんだから、気をつけろよ。」
「いけねぇ、亮ちゃんのお小言が始まりそうだから、用件だけ済ませて帰らなきゃ(笑)」
「物付けてくれたか?」
「ああ、亮ちゃんに言われた通りに、リビングから風呂からトイレまでカメラと盗聴器付けといたよ。これが機器へのアクセスキー(亮平へメモ用紙を渡す)部屋中どこにも死角はないはずだ。全身鏡にも動画スキャンカメラ仕込んどいたぜ。何に使うか知らんが(まぁ覗きしか考えられんが…)俺は何も関係ないからな。」
「分かってるよ、悪いな勝ちゃん。ちゃんと使えるの分かったら、約束通り借金の半分棒引きするから。」
「それが俺の口止め料ってわけだ…」
「あぁ。今度おねえちゃんがいないところに飲みに行こうか、勝ちゃん。」
「いるところがいいんだが、まぁいいか。勿論亮ちゃんの奢りでだろ。」
「一回は奢ってやるけど、あまりいい気にならない方がいいぞ、勝ちゃん。俺の口利き無くなれば、銀行、融資直ぐにでも引き上げるだろうな。」
「わ…分かったって…そ…それだけは絶対やめてくれよ亮ちゃん。
……藪蛇になる前に俺お暇するわ(笑)じゃあまたな。」
「あぁ、使えるの確認したら飲みに行く日連絡するから。ありがとうな勝ちゃん。」
「いいってことよ。何かあったらまた言ってくれ。あんたには返しきれないほどの恩貰ってるからな亮ちゃん、じゃあ。」
そう言うと社長室を後にする菊池。
菊池勝利は、佐久間スポーツジムが店を構える同じ町内にある、菊池電気商会の店主。
以前は別の電気店に電気工事士として勤務していたが、社長が代りその新社長との仲がぎくしゃくして退職、自堕落な生活を送っていたところ、居酒屋で亮平と知り合い意気投合。
亮平の勧めもあり、前は別の名前の電気店だったが、店主が高齢で店を畳むつもりだった店の後継者に納まっていた。
新規開店に掛かる改装資金等は亮平からの借金。足りない部分は亮平の口利きで銀行から融資を受けていた。
社長室から自分のデスクに戻った堂本。
部下からの報告相談を数軒処理した後、パソコンのメーラーを立ち上げる。
「井ノ上さんにいつでも引っ越しOKだって連絡しないとな。」
メール
【井ノ上胡々希様。佐久間スポーツジム総務部の堂本です。
寮のハウスクリーニング完了し、いつでも引っ越しいただくことが可能となりましたのでご連絡します。
当方の都合もありますので、引っ越し日が決まりましたらご連絡お願いします。
以上、宜しくお願いいたします。】
「これで良しと、社長をccに入れて送信っと。」
仕事中の黒木
「心の声:あぁもう、今日もジジババばっかりじゃないの。目の保養にもなりゃしない。平日はやっぱり駄目ね。」
トレーニングルームに立ちながらそんなことを考えているとお客から声がかかる。
高齢の客〇〇「インストラクターさん、この器械の使い方はどうじゃったかな?」
「〇〇さん、これはこうやって(自分で器械に座り動かして見せる)使う物ですが、一番軽くしてもかなりの重さがありますが大丈夫ですか?」
名札を見た〇〇
「あんた黒木さん言うんか、あんまり年寄り馬鹿にしちゃいかんぞ」
「馬鹿にするなんてそんなつもりは…(黒木心の声:どうしてそうなるのよ全くもう…心配しただけなのに。)」
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