パソコン画面に映る自分の姿に、何でもないその写真を見つめているだけで何故かドキドキしてしまう。
『あなたのお願いだからって…仕方なく来ちゃったけど…。
知らない人からの指示に従っちゃった…。』
夫しか知らない私にとって、日常的に夫以外の男性と接する機会が無く、男性に対しての免疫はほとんど無いと言っていい。
日常、他の男性と会話する事すら無い生活の中で、他の男性、ましてや見知らぬ男性の指示に従ったことだけでも夫への背徳心に包まれる。
そんな感じたこともないような感覚に包まれている間にも、写メを晒したことへの反響はサイトのコメントに表れていた。
『うそっ…!?こんなにたくさん!?』
あっという間に次々にアップされるコメントに目を通すだけでも大変。
それでも元々の真面目な性格からなのか、確実にひとつひとつのコメントを心の中で読み上げていく。
スタイルがいい…。若い感じ…。そんな褒め称えるコメントを読みながら、見知らぬ他人が性的興味を持って煽てているとわかっていながらも悪い気持ちにはならなかった。
『露出する気満々…?歩いているだけでガン見…!?』
夫のリクエストされたままの服を身に纏っただけ…。
今日一日、ほんの少しの時間を我慢すれば夫の願望からは解放される。
ただそれだけを考えていた為に、周りからどんなイメージを持たれるかなど気にする余裕はなかった。
『この服って…そんな風に見えるものなんだ…。』
途端に恥ずかしさが込み上げてくるものの、それが夫の望みである以上、ここに来てしまっては、それを拒むことはできなかった。
すると服装を写メして…と言っていたペガサスと名乗る人からコメントが上がる。
良くできました…。
『私…誰かに褒められた事って…いつだったかな…。』
主婦として家事をこなす毎日を労われる事くらいはあったとはしても、それを褒められたことは…記憶にない…。
何故かペガサスと言う人物の言葉だけは、心の中に染み込むように馴染む感じがした。
『ファスナーを…?胸の…谷間…!?』
普段なら決して他人に見られることのない姿。それは夫への操をたてる意味でも晒してはならない姿だと思っていた。
しかし今は…それを晒せと迫られている。
普通なら従うはずはない。しかし今は…夫がそれを望み、ここに来ているのだ。
『裸になれって言われるよりは…谷間くらいなら…。あなたもそれを望んでるでしょう…?』
夫の望みとペガサスと言う人物の望みが重なって感じられた。
静かなブースの中に、ジジジ…と控えめでもそれとわかる音が響く。
『胸の谷間って…どのくらい見せればいいんだろう…。』
あえて自分から見せようと思った事もない私にとって、どのくらい見せるのが正解なのかわからなかった。
夫の望みは…ペガサスと名乗る人の好みは…。
経験の少ない私には考えても答えなど見つかるはずはない。
迷いながらジジジ…と響く音は途絶えること無く、胸を包み込む下着が見えないギリギリまでファスナーを下げてしまう。
『これ以上は…ブラが見えちゃうから無理だよ…。』
豊かな柔らかそうな膨らみが創り出す谷間。深く吸い込まれそうな谷間を晒した姿をサイトにアップする。
《谷間…少し恥ずかしい…。こんな感じでいいですか…?
指示通り…このままドリンクコーナーに行きますね…。》
そうコメントをあげた直後、ブースの扉が静かに開く音が響く。
開いた扉が閉じられると、静かに流れるBGMの中に私の靴音が紛れ込む…。
『こんな恥ずかしい格好で歩くなんて…。今日だけだからね…。今だけ…我慢すれば…。』
夫に釘を刺すように心の中で呟き、自分自身を奮い立たせるように言い聞かせ、誰にも会わない事を願いながらドリンクコーナーへ向かう。
『よかった…誰にも会わなかった…。』
安心してみても、まだブースには戻れない。そこからの指示がまだ残っているのだから…。
《今…ブースを出てドリンクコーナーに来てます…。
テーブルでフリードリンク…飲んでます…。
今は周りには誰も…。ここに来る間も誰にも会いませんでした…。》
とりあえず状況を説明するコメントと、指示を継続中だと報告する。
『このまま…誰にも会わなければ…。』
と、甘く考えた途端、通路の角を男の人が曲がってくるのが見えた。
思わず俯き視線を逸らす。
俯いてストローを口に含み、スマホを眺める振りをしている私に気づいたのだろうか…。
私の横を通り過ぎる瞬間、僅かに足取りが遅くなったように感じた。
『うそっ…早く通り過ぎて…。』
身体を小さく丸めるように屈めていたことで、晒した胸の谷間は私の横を通る人が見下ろせば、より深くまで覗けてしまうかもしれない…。
『早く…。早く通り過ぎて…。』
立ち止まったわけではなかった。しかしながら僅かに遅くなった歩みが途方もないほどに長い時間覗かれていたような感覚さえあった。
男性は私の横を通り過ぎ、ドリンクコーナーへ向かうと、すぐにこちらに戻ってきた。
少し離れたテーブルにこちらを向いて腰を下ろすと、そこでフリードリンクを口元へと運んでいる…。
『えっ…なんで…!?ブースに戻らないの…!?』
チラチラこちらに視線を向けてきている感覚。俯いたままスマホを眺めるふりで時折上目遣いに確認すると、サッと視線を逸らされる…。
『やっぱり見られてる…。あんなに不自然に視線を逸らすって事は…私の事…見てるんだ…。』
そして手にしたスマホでサイトに報告コメントを…。
《誰も居なかったのに…一人フリードリンクを取りに来た男の人が…。
私の横を通り過ぎる時…気持ち歩き方がゆっくりになったような…。
今は少し離れたテーブルで、こちらを向いてドリンク飲んでます。
若い男の人ですが…なんとなく気が弱そうな…。しっかりは確認できないですけどチラチラ見られている気がします…。》
スマホをテーブルに置いてドリンクを口に運ぶ。
俯きながら前髪に視線を隠すように向かいの男性の様子を探る。
『絶対…見てるよ…。あの人…私の胸の谷間…見てる…。
あなた…見られてるよ…?これでいいの…?これで満足できるの…?』
心の中の呟きは夫に向けたもの。
夫の指示でサイトまで指定され、そこにコメントをあげたのだから、夫にも今の状況は伝わっているはず…。
それはダメだと思うのなら、夫は直接メールを送ってくるだろう…。
メールが来ないとすれば、今の状況を楽しんでいるに違いない。
夫の心境を頭に浮かべながら、見知らぬ男性に見られる時間は続いている…。
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