「はぁ…はぁ…はぁ…。」
静かなブースの中に私の荒い呼吸が響く。
夫の望みと言う拒みきれない遊戯。
見知らぬ男性からの指示に従い、あり得ない姿を晒してしまう。
そんな考えもしなかったことが現実に起こっている。
『うそだよ…こんなに大胆になっちゃうなんて…。』
夫以外には決して見せてはならない姿。
ましてや、それを夫に見せることすらない姿を晒してしまうなんて…。
目の前のモニターには投稿したばかりの自分とは思えないほどの卑猥な姿が映っている。
『コレが…ホントに私…?こんなにイヤらしい格好してるなんて…。』
恥ずかしさに顔を赤らめながらも、ウットリと潤んだ瞳で見つめてしまう…。
『こんな…こんなにイヤらしい姿を…。
今…知らない男の人が…。たくさんの男の人が見てる…んだよね…?』
あり得ない刺激だった。考えたこともない刺激…もちろんこんな世界があったことすら知らなかった…。
今まで知らなかった世界…それとともに自分自身でも気づかなかった何かが心の中に湧き上がってくるような感覚…。
『だって…。イカないように…って…。
途中までなんて…おかしくなっちゃうよ…。』
心の中の呟きは、自分でも認めたくない事実を誤魔化す為…。
芽生えてしまった新しい感覚を信じたくないから…だったのかもしれない…。
信じられない刺激と新しい感覚、それを認めようとしない自分自身の葛藤。
息を乱しながらも冷静になろうとする気持ちを打ち砕くように、サイトには次々とコメントが上がる。
『モロ写メ…だなんて…。』
コメントと画像がシンクロすると顔は更に赤みを増していく。
おまんこ…ワレメ…パイパン…。
オナニー…スケベ汁…本気汁…。
そして気づかれてしまった…ザーメン…。
日常の生活の中では決して耳にも口にもしないような言葉が容赦なく浴びせられる…。
そんな卑猥な世界の言葉を次々にコメントしていく男性達の私への興味と羨望と賞賛…。
周りの目や言葉や考え方…そんなものは自分に必要なものでなければ無視すればいいだけ…そんな風に考えて生きてきた私であっても、今の状況ではその言葉のひとつひとつが突き刺さるように染み込んでいく…。
『みんな…ダメだよ…そんなイヤらしい言葉…。』
冷静さを取り戻そうとしている私を容赦なく快楽の世界へと引き戻していく。
そこへすかさず夫からのメールが届く。
冷静に戻ろうとする私を追い込んでいくサイトの男性達の言葉を咎めるでもなく、私の言動を制止するでもないメール。
むしろサイトの男性達とのやり取りを楽しんでいるかのような文章に、夫が喜んでくれているのなら…と、何処か吹っ切れてしまうような感覚すら湧き上がる。
《興奮…だなんてそんな…。
でも…あなたが喜んでくれるなら…私も嬉しいよ…?
あんなにエッチな写真…見せちゃってよかった…?怒ってない…?
もう少しヒントって…大丈夫かな…ホントにそんなヒント出してもいいの…?
ここに来ちゃう可能性って…。》
と、夫のメールに返信を送っている間にもサイトには新しいコメントが続々と…。
『そう…信じられないけど…初めて会った男の人に…恥ずかしい姿を見られて…私…濡らしちゃったの…。なんでだかわからないけど…気持ちよくなっちゃった…。』
『露出狂マゾ…!?私…そんな女じゃ…イヤっ…辱めてやるだなんて…そんな…。』
『不貞妻…?そうなのかな…。でもコレは…夫が望んだ事だから…。
でも…夫以外の男性に…指示された通りに…知らない男性に露出して…濡らしちゃったんだから…不貞…なのかな…。』
『そんな…ここの場所…バレちゃったら…罰…受けるの…?ハメてやるだなんて…私…知らない男の人に…エッチされちゃうの…?』
コメントのひとつひとつに心の呟きを繰り返していると、更なる深みに惹き込まれるように、頭の中には淫らな妄想が広がってしまう…。
寸止を強いられて欲求が膨らんでいく悪循環。到底、冷静さを取り戻すことなんてできるはずもなく…。
例のあの男性からの新しい指示が、私の心を揺さぶる。
夫への背徳心を煽り、寸止めさせられて満たされない身体を持て余している事を見透かしたかのようなタイミング。
あと少しで絶頂を迎えられる寸前での自制…。私にそれを拒否する感覚など残されていなかった。
言われた通りに胸元のファスナーは乳房の下まで下げ、裾のファスナーは逆に上へと滑らせながら裾を開いていく。
下着が半分見える高さまでファスナーを上げると、その姿を写メに撮りサイトに画像をアップする…。
《ペガサスさんからの指示…この格好でフロントまで行ってきます…。
このネットカフェの場所ですが…〇〇駅から…✕✕駅までの何処かの駅…。
駅前にあるネカフェ…それがヒントです…。》
そんなコメントを添えてサイトにアップすると、ブースの扉を開き、膝をガクガクと震わせながら外の世界へと足を踏み出す…。
『こんなイヤらしい格好で…プラントまで行くなんて…誰かに会ったら…どうしよう…。』
辺りをキョロキョロと見渡しながら、誰にも出会わない事を祈るように…。
それでも、こんな格好で歩いているだけで、心の底から湧き上がるような幸福感。
誰にも会わないようにと願いながらも、誰かに目撃される事を望んでいるなら自分もいたのかもしれない。
フロントまでの距離はそれほど遠いわけでもない。早足で歩けばあっという間。
わざと歩幅を狭く、ゆっくりと歩くのは股間に溢れる蜜の違和感なのか…。
それとも誰かが現れるのを待っているのか…。
最後の角を曲がろうとした時、この角の先にあるフロントで何人かの話し声が聞こえて立ち止まる。
『うそっ…何人か居るの…!?フロントのあのオジサンだけじゃないんだ…他のお客さんも…?』
脚の震えが更に激しくなる。フロントの男性に見られるだけならともかく、他にも複数人の声が聞こえるそこに飛び出す勇気は無かった。
とは言っても、このままここに立ちつくしているわけにもいかない…。
深く息を吸い込み勢いよく吐き出すと、勇気を出して一歩を踏み出した。
もう前を見ることができなかった。私の視界にとらえられるものは、床と自分の脚、そしてフロントカウンターが視界に飛び込むと同時に、何人かの男性の足元も見えた…。
『恥ずかしい…絶対に…おかしい女だと思われちゃう…。
でも…隠したらダメだって言われたし…。』
勇気を出してフロントのカウンターの前に立つと、絞り出したようなか細い声で…。
「あっ…あの…。」
その先の言葉が出てこない。俯いたまま確実に向けられているだろう視線を意識しながら、更に弱く細い小さな声で…。
「あの…えっと…。あの…ペンを…。赤の…マジックペンを…貸してもらえますか…?」
漸く要件を伝えることができた。
しかしその間も、私に向けられた興味の主からの容赦ない視線を全身に浴びながら、その場に立ち尽くす私…。
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