何を話しかけても何も反応がない。
まるで心を持たない抜け殻のように。それでいてこちらの要求には素直に従う…。
さぁ…入って…。
じゃあここに座って…。
教室に入ることも椅子に座ることも、こちらの言う事には素直に従ってくれる。
言葉を理解できていないのではない。
理解した上で心を通わせる事を拒んでいるかのように見える。
『一人が好き…と言うよりは人と向き合うことが苦手なのか…。』
色々と話しかけて漸く娘の声を聞く事ができた。
「えっ…?ほん…?」
思わず彼女の言葉に被せらように声を発してしまった事に後悔しながら、ゆっくりと彼女の言葉を待つように…。
「そうか…。弥生ちゃんは…本が好きなんだね…。」
彼女が落ち着く場所を見つけられたような気がした。
本…読書…図書館…本棚…。
何も言わず、何を強制するわけでもない本。こちらが望めばいつでも本はあらゆる情報を提供してくれる静かなる存在。
それを好む彼女には何にも縛られたくはないと言う強い意志が感じられた。
「あっ…。」
彼女の言葉に思わず声が漏れた。
一度だけ挨拶した時に名乗った名前を覚えていてくれた。
初対面の大人で緊張するだろうに、ちゃんと名前を呼んでくれた。
その事だけで喜びが心を満たしていく…。
「うん…先生も本が好きなんだ…。
ずっと先生を続けてきたからね…。
本は色んなことを教えてくれるし、心を豊かにしてくれる…。」
こちらをしっかりと見つめて話を聞いてくれる仕草に、更に喜びが増してくる。
漸く見えた光…心と心を繋ぎ止める灯火を消さないように細心の注意を払いながら…。
「そうだ…。じゃあ…先生の本棚を見てみるかい…?
弥生ちゃんの好みに合うかどうかわからないけど…。」
そう言って立ち上がると、彼女を連れて教室を出る。
「先生も完璧ってわけじゃないからね…。
わからないこともたくさんあるし…そんな時は本を頼りに開いてみるだよ…。」
教室の隣の部屋には、壁一面に天井まで続く広くて高い本棚がそびえ立つ。
教育書はもちろん、医学書や経済学、哲学書やもちろん文学作品まで数多く納められている。
「先生も…何かに困ったときや疲れたときには…ここで本を読んで心を落ち着かせるんだ…。」
本棚に並べられた本の背表紙を端から順に指先でなぞりながら歩き…。
「どうかな…?弥生ちゃんが読めそうな本…あるかな…?
ここの本は自由に読んで構わないよ…?
そうだ…今日から弥生ちゃんの教室はここにしよう…。」
彼女にクルリと向き直ると、明るい笑みを浮かべて両手を広げて見せる。
「弥生ちゃんがここに来る時は…。好きなだけここで本を読んでいいから…。
ここを自由に使って構わないからね…?」
【知り合いの娘を預かり…いつしか芽生えた悪戯心が盗撮という卑劣な行為に…。
知り合いの愛娘を盗撮する背徳感が堪らない興奮を与える…。
そんな感じでしょうか…?】
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