メッセージを返し終えたのか、すっと脇にスマホを置く動作が見える。
青年にとって重要なのは次の行動。
こちらに向かって…もとい、ブースの扉に向かって歩いてくるような素振りを見せなければ、黙ってその場を立ち去る。
そう言う手はずだった。
先ほどよりもはるかに大きく、強い鼓動を感じる。
全速力で駆け抜けた直後のあの動悸にも似た感覚と、一瞬呼吸することを忘れそうになるほどの緊張感。
「は…はぁ…はぁ…。」
漏れる吐息は興奮からではなく…緊張に耐え切れない動悸からくるものだった。
そしてその時は来た。
助けを求めるような声をあげるでもなく、イヤホンから離脱の指示も来ない。
ゆっくりと動き出す半裸の美優の身体は男の脇をすり抜け、わずかに開いたブースの扉をきっちりと締め切り、錠を…落とした。
-君を受け入れるなら、ブースの鍵を締めるはずだ-
反響するように、男の言葉が何度も脳内でこだまするように感じる。
脇をすり抜けた美優…が纏う甘酸っぱくも生々しい雌の香り。
これまでの行動を、書き込みと相まって色濃く想像させてしまう。
再びぐっと持ち上がる股間が、パンツの股間部を持ち上げるのを感じる。
反り上がっていく、竿は固さを強め、先端が纏ったボクサーパンツの股間部を擦りながら。
「くっ…。」
その感覚に思わず前かがみになりそうになるが、目の前でさらに恥ずかしい光景を晒している美優を見れば、小さなプライドがその行為をとどまらせる。
そのまま何も言わず、サイトへの書き込みを再開した美優。
画面に向かうことで、青年に背を向ける形になる美優。
半裸、恥ずかしくもはしたない恰好を改善しようともしない美優。
変態的な行動…、しかしその整った容姿とのギャップが青年を惹きつけていくのも事実だった。
そんな状況を少し様子見で眺めていると、
「美優は…、ブースに君が来たことを隠している。
その意味が分かるね…?
その状況をうまく利用すると良い。
これから返事は、都度イヤホンを2度ノックしなさい。
返事ができないこともあるだろう…、私の指示を2度…無視すれば私は警察に通報する。
わかったね…?」
妻の、最愛の女のあられもない姿、変わっていく姿を楽しみたいのは本音。
しかし、怖い目に合わせたいわけではなかった。
そんなことを美優自身が望んだりしなければ…。
トントン…、と、美優の背後でイヤホンをノックする。
当然だが、距離が近づけばイヤホンマイクを通して美優の声も届くことだろう。
男はそんな状況を求め、青年に手渡していた。
「何…してたんですか…?お姉さん。」
少し取り戻した平常心。
そして、青年はあえて少し大きめな声で美優に話しかける。
隣に夫がいることなど知るわけもない青年の行動。
当然、隣近所を気遣って声を抑える理由はカフェ内の迷惑にならない程度に抑えることくらい。
それを配慮しても、隣にいる夫に聞こえてしまう、そんな想像をさせるほど、美優にとっては少し大きく聞こえる声だった。
男の言葉が事実なら、自分がいるブースから男の声など聞こえてはいけない。
無視はできない。
そして、目の前の女…妻という立場でありながら、夫の願望をかなえる為と言いながら夫に隠し、興奮、快感、非現実の為に偽りの事実を夫に告げているということはもはや、後ろめたい嘘、ということになる。
「どうするの…?美優…。ふふっ…。
上手く隠さないと…、俺にバレちゃうよ…。」
問いかけた青年の声が、イヤホン越しにもブースの壁の向こうからでも聞こえる。
次の美優の行動を期待しながら、
《覗かれちゃってるんですね…?
どんな人…?
念願叶ったね…?
覗かれたかったんでしょ…?ねぇ…お姉さん…。
シミ…どうなってる…?
どんな気分…?もっと、もっと興奮したく、もっと欲しくなっちゃったかな…?》
さらに煽るように、「佐藤」は間髪入れずレスをかき込んだ。
【それで結構ですよ。
一番大事なのは、リアルな時間です。
結果として、悪い影響を与えるようなことになったら私も喜ばしくない。
何より、長く続けられることが理想で、最悪は貴女からの返事がなくなること。
そんな最悪に比べれば、一日、二日、返事がないくらい、どうということはありませんから。】
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