身体が固まったまま動けない。
わずかに横に向けた顔。目だけが扉の方を向き、その視線だけが扉を開き中を覗き込む男を捉えていた。
『イヤっ…誰…!?ホントに…見られちゃった…!?』
まさに青天の霹靂…とは言っても自ら招いた状況。コメントに従っただけと言い訳もできるだろう…それでも自分自身の行動で訪れた状況に変わりはない。
『ホントに…見られちゃうなんて…。』
恐怖…不安…後悔…。
そんな感情が入り混じるものの、身体に伝わる衝撃とも言える刺激を感じていることは確かな事。
カタカタと小刻みに震える膝が表しているものは、恐怖や不安という負のエネルギーではなく、昂りや興奮と言った淫らな芽生えがもたらしたものだと言うことはなんとなく理解できてもいた。
壁に突っ伏すように腰を突き出し、手を股間に這わせたまま固まる私。
扉の前に立つ男が何かを話しかけたように感じた次の瞬間、私の聖域であるブースの中に踏み込んでくる。
後ろ手に扉を閉める音…。
密室で見知らぬ男と二人きりになる非日常の光景。
どれをとってみても現実とは思えない状況に頭の中の混乱はさらに激しくなり思考回路は完全に停止。
「えっ…!?」
不意に男が口にした言葉は、そのまま獣のように襲い掛かってくるかと思われた最悪な状況を打ち破るものだった…。
男に促されて唸り続けるスマホに手を伸ばす。震える指先では簡単に操作ができず、両手で握りしめるように…。
その瞬間、股間を擦りあげていた指先がヌルリとスマホを滑る感覚に、改めて溢れ出した蜜の存在を思い知らされた…。
『あっ…大輔さんから…。』
夫からのメールに心が少しだけ軽くなる。
侵入した男は自らスマホの存在を知らせ、中身を確認する時間を与えてくれている。
襲おうと思えば襲えただろう絶好の時を自ら放棄したに等しい行為。
それがまた私の世間知らずの感覚を擽り、危険回避能力を麻痺させてしまったのかもしれない…。
[えっ…そうかな…。あなたが喜んでくれる事をしただけだから…。
そうなの…?声…聞こえちゃってるの!?
お隣の人は…特に何も…。
うん…大丈夫…何かをされたわけではないし…もう少しくらいなら…頑張れる…。
あなたに喜んで欲しいし…。
わかった…ブースの鍵は…ちゃんとかけておくね…。]
そうメールを返信している間に、侵入してきた男はわずかに横に動いていた。
それはまさに、私が扉の鍵をかける為の隙間を作っているかのようだった。
しかしそれにも何の違和感を覚えることなく、震えた指で変身する事に手間取ってしまった私は、ようやく夫への報告を終えた安堵…いや…夫が何も気づいていない事への安堵を感じながら…男の横をすり抜けるように扉に近づくと、静かに…いや…夫に安心を与える為に、わざとらしく音を響かせるように鍵をかける…。
『大輔さんも…これで安心してくれるはず…。サイトの指示に従って…もっと…おかしなことになっちゃっても…鍵がかかっているなら…安心だもんね…。』
何も気づかれていないと思うからこその勝手な思い込み。
夫に与える安心のはずの行為が、逆に昂りを与えてしまうとは思ってもみなかった…。
現実には淫らにはだけたワンピースから露出するイヤらしい下着を晒して立ち、狭い個室の中に見知らぬ男の人がその姿を見つめている…。
そんな特異な状況に、身を固めてしまう私は、このいつまで続くかわからない膠着を打破する為に…なのか…パソコンに向かいコメントを打ち始める。
『大輔さんも見てるんだもん…ホントのことは言えないけど…。』
《今…少し扉を開けた隙間から…知らない男の人に…覗かれちゃってる…。
そんな妄想を…しながら…エッチな…シミをつくった…パンティ…擦ってます…。
覗かれちゃうなんて…扉を…少し開いたから…覗かれちゃってる…。
あぁ…イヤらしい私の格好を…覗かれちゃってる…。
でも…でも指が止まらない…パンティ擦る指が…止まらない…。
覗かれてるのに…どうして…止まらないの…。》
妄想として今の状況を報告することで、現実を夫に知られる事はないと考えた。
妄想が妄想を塗り替えるような指示が来たのであれば…妄想として報告しつつ…現実を受け入れる…そんな企みが芽生えてしまった…。
【ありがとうございます…。
一度は目覚めたのですが…思考が廻らなくて…きっとちゃんとしたものは描けないだろうな…と思いました…。
そう仰っていただけて助かります…。】
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