「はぁ…はぁ…はぁ…。」
男の書き込みを見届けて以後、美優の生々しい反応を耳で感じる為、青年は隣のブースとの間を隔てる壁に耳を押し付けている。
ちらっと…男に視線を向ける。
男は黙って微笑み、頷くのみ。
「きこ…える…。」
消え入りそうな声で…、隣のブースから微かに聞こえてくる艶やかな喘ぎ、卑猥な水音への感想を告げる。
出会って数分の男もいる自らのブースの中で、興奮の色が隠せなくなっていく青年。
たった一人の男に妻は女から雌へとひん剥かれ、青年は誰にも晒せない性癖を露呈させられる。
青年の股間は傍目にもわかるほどに怒張していた。
男は察する、おそらく自分よりも立派なものを携えているだろうと言う事を。
それを目の当たりにすれば、妻は…美優はどんな反応を示すのだろうか…考えるほどに興奮がさらに高まっていく。
そして喘ぎが少し落ち着いたかと思うと、隣のブースでキーボードを叩く音が聞こえる。
美優の心を幾度となく揺らした佐藤への返事を綴っているのだろうか。
青年の心をも昂らせた男の書き込み、への返事。
情けなくも四つん這いでPC前に這うようにして戻ると、隣からはまだキーを叩いている音が聞こえているにもかかわらず、トン、トントン、と更新キーを連打してしまう。
「ふふっ…。
随分と楽しんでいる様じゃないか…。
大丈夫…、美優は逃げやしないさ…、君がルールを守ってさえくれるなら…、好きにすればいいんだから…。」
そんな新しいおもちゃを目の前にした子どもを宥めるかのような言葉をかければ、
「は…はい…。良いんですよね…本当に…。」
最後の確認、でもするかのようにそう呟き男の顔をもう一度見れば、男は微笑みを浮かべたまま黙って首を縦に振る。
「あ…。
え…今から…。言葉に…。」
更新された美優のコメントに視線を走らせると、再び壁の方に視線を向け踵を返し戻っていく。
そして飛び込んでくるのは、挑発的な言葉。
欲情した雌が誘うように…、揶揄うように…そして楽しんでいるような言葉。
そして「覗いて。」と、はっきり口にしたかと思うと、隣のブースの扉が少し動いたように感じる。
男を見る青年の目は興奮で少し充血し、欲情そのものが滲んで見えるほど。
男が再び頷くと、ゆっくりと立ち上がる。
膨らんだ股間を整えもせず、自らのブースの扉を開き通路に出る。
周辺の客の状態を確認すると、視線は美優がいるブースに。
僅かに開いたブースの扉。
内側から鍵をかけていれば開くはずのない幅で扉が開いているのがわかる。
「本当に…、覗いていいんだ…。」
結果的に、美優の誘いへの返事を言葉で返すことはできなかった青年。
スレッドは初回からすべて読み返した。
しかし、文字で描くには限界がある。
美優という女は本当にそこにいるのか。
顔は…?服装は…?体型は…?
既に得られている情報もあるとはいえ、百聞は一見に如かず、という言葉があるくらいだ。
一目見るまで分からない。
「んく…。」
美優のブースの扉の前に立つ。
生唾を飲み込み、さして暑くもないのに額に汗がにじむ。そしてその首筋に汗の粒が伝う。
キィ…。
普段なら扉が開く音など気にもしない。
しかし、その時はとても大きな音が鳴ったように感じた。
覗いていい、云われたのはその言葉。
しかし、いつどんな客が通りかかるかわからない場所で、「覗いている」状態が知れれば問題が大きい。
意図してか…、無意識か…。
ゆっくりと扉を開いていく。
「み…、あ…。本当に…いいんですね…?」
美優さん…と呼びかけそうになってハッとする。
そもそも隣室の客である自分は書き込みの事を知っているはずがない。
なら名前などもってのほか。
咄嗟に言い換え、確認するように問いかける。
あられもない姿…漂う少しの淫靡な空気…生暖かい湿った香り。
時間が止まったかのように、中にいる女性に目も心も奪われるように見つめてしまう。
【こんばんは。
今週もお疲れ様です。
そもそも、週末くらいしか時間がないというお話の中で、毎日お返事がいただけたこと改めて感謝しています。
とても素敵な一週間を過ごすことができました。
お時間は気になさらず。
落ち着けばまたお返事を下さい。
一点、描写についてご連絡と言いますか…。
互いのブースですが、扉はスライドではなく取っ手を持って手前に引いて開くものを想定して描いております。
ネカフェによって構造は様々と思いますが、一応念のため。】
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