静まり返っているはずのネットカフェ店内。
しかし、一部のブースでは卑猥な水音、あるいは艶やかな喘ぎが聞こえてくること自体はさほど珍しくないのかもしれない。
よほどのモノ好きでなければ覗き込むこともないだろう。
加えて、日本人特有の控えめな人間性。
ある意味それが身の危険を最小限に抑えつつも、見知らぬ誰かを近くに感じながらはしたない行為に耽ることができるこの環境は、変態さん、にとっては夢のような空間かもしれない。
《お、返事が来たな…。》
《やっぱり、ちゃんとやってたんだね…。待ってた甲斐があったよ。》
《誰だよ、逃げたとか嘘とか言ってたやつはよ。》
《さっきの兄ちゃんの言ってた通りじゃねぇか。》
《つか、このスレやばくね…?立ってから1時間くらいなのにレス数三桁超えてんだけど…。》
美優が何かを発すれば、沸き立つスレッド。
美優を中心に盛り上がりを見せるスレは、他とは雲泥の差。
中には積極的に、指示に従い、画像まで晒している女さえいるが結局それどまり。
応えきれなくなって音信不通、あるいはスレ削除。
生々しくもリアリティを感じさせる美優の存在が、画面を介して数多の男を彷彿とさせていた。
《つか、兄ちゃん…名前なんていうんだよ…。名無し、のままじゃ呼びにくくて仕方ないぜ…。》
《んだよ、男の名前なんか聞いてどうすんだ…ゲイか?笑》
《馬鹿か…。
この兄ちゃんが、美優ちゃんを動かしているようなもんだろ。外野が絡んでんじゃねぇ。》
不意に出る、男の名前を求める声。
ありきたりなサイトの匿名性「名無し」。
誰もが特に指定もせずに発言すればこの状態。
美優を突き動かす男も当然、名無し。
一人の男が言うように、何人もがその男によって美優は揺れ、滾り、昂っていることを理解していた。
《名前…何でもいいじゃないですか…。
といっても、無視は良くないですね…、佐藤…にでもしておきましょうか。》
その発言で、発言時の名前の表示が佐藤に切り替わる。
《ちょっと話が逸れちゃってますね…。
事故を望むのと、見せちゃうの違い…でしたっけ…?
貴女の行動が伴っているかどうかですよ…美優さん。
隙間から誰か覗いていたら…、あるいは、覗いてほしいな…。
は望んでいるだけですが。
もし覗いていることに気づいて、わざと…見えやすいように足を開いたら…。
もうそれは事故ではありません…。
見せちゃっていることに…なりますね…。》
揺れる美優の心が抱く疑問を解説するように、男は丁寧に答えていく。
不思議と、男が話し始めると周囲は少し静けさを取り戻す。
まるで、男の言動で次の美優の行動を待つかのように。
《なんて…。
もうどっちでも良いんでしょ…?お姉さん…。
結局後付け…、あれは事故、事故だったのって言い訳するのか…。
見られたかった、見られたくなっちゃった…って認めるのか…。
貴女の心ひとつ…お姉さんの心ひとつ…ってね。
ほら…つぐんだ唇を開いて…舌先をだらしなく伸ばして…。
ほとんど丸見えの下着…その中心のシミを…ゆっくりとなぞってみて…。
えっちな声が出ちゃっても…それは事故…。
お隣さんを…音で興奮させちゃいなよ…。
お姉さんの…えっちな音…えっちな喘ぎ声…聞かせてあげなよ…。》
男からの指示が徐々に卑猥なモノへと変わり始める。
確実に、美優の心を揺らし、誘うように。
-同刻-
コンコン…。
「あの…すいません。
ちょっと良いかな…、相談というか…お願いがあるんだけど…。」
サイトをスマホで表示して、移動しながらでも書き込みができるように切り替えた男がついに次に行動にでる。
【こんばんは。
結果的に私も1日1回程度しか返せていないので、おあいこですね。
悦んでいただけるのは嬉しいですが、あまりハードルを上げると期待外れが怖いですね…。
ほどほどの期待でお待ちいただければと思います。
寒い日が続いていますので、体調にはくれぐれもご注意ください。】
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