静まり返った室内。
治療を行う部屋、とは言われたものの、ソファと丸椅子。
それらに互いに腰を掛けているだけの状態。
適切な室温管理がなされている中ではあるものの、ジワリと額に汗がにじむ。
緊張か…、凛としたそのいで立ちは職務に徹しているといった様子で、良くも悪くも愛想のようなものは感じさせない千紘に少し表情を強張らせてしまいながら。
「は、はい…。
宜しく、お願いします…。
しょ…症状は、勃ちにくい…と言いますか…。
その…射精…までたどり着けない…んです…。」
治療の為に来院したとはいえ、おそらく一回り以上も歳の差がありそうな女性に対して話す内容ではなく、しどろもどろになりながらうつむきがちに応えていく。
(こんなこと…、わかってる…治療だ…覚悟してきたんだ。
医師の方も、症状がわからないと治療の施しようがない…わかってる…。
はぁ…よりによってどうしてこんなに若くて、綺麗な人に当たってしまったんだ…。)
複雑な心境。
いずれの病院に赴いたとしても、医師や看護師、担当するものが美人であれば喜ぶのが普通。
しかし、今のこの男にとっては全く逆。
言わば、「男としての価値」の少なくとも一部は持っていないことを自らの口で露呈しているのだから。
女性の誰もが性行為を求めてはいないのかもしれない。
しかし、勃たない、それは多くの夫婦関係、あるいは恋人関係において、十分に破局に行き着く可能性のある症状だ。
そんな惨めさ…ある意味羞恥責めを食らっているような感覚を覚えながらも、ある程度は覚悟決め、いや、諦めて男は続けた。
「半年ほど前…に、妻がその…不倫…をしていることを知ってしまって…。
何度も、そんなはずはない。家の妻に限って…と、否定する為に別の可能性を探っていたんですが…。
探れば探るほど、不貞の事実が確固たるものになるばかりで…。
その頃からなんです。
勃起…しづらくなってしまったというか…、完全に勃った記憶が最近なくて…。
もうかれこれ何か月も、妻の膣で果てた記憶は…ありません…。
病気…なのでしょうか…?
精神的な物、だとは思っています…。だから治療なんて…、出来るとは思えない…と言いますか…。
あぁ、すいません…。それを専門にされている医師の方にこんなことを…。」
一度不安を、懸念を口にしてしまえば溢れる本音…感情…。
きゅっと太ももあたりでズボンの生地を強くつかむように拳に力が入る。
「こちらは数少ない、勃起障害、射精障害の治療をされていると知り…。
今回、藁にも…いえ、ぜひお力をお借りしたいと思い…、やってまいりました…。
私はまた…、射精することができるのでしょうか…。」
言葉通り、一般的な頻度で射精をしていた頃から、それすら叶わなくなった男は微かに睾丸にも違和感を感じており、ずっしりと重い感覚も覚えていた。
それがここから、目の前の慎ましやかな女性の処置によって、少しずつ、心理状態も変化していくことになるとは露とも知れず。
【承知しました。
必要以上に描きすぎず、流れに任させていただく感じになりますが、よろしくお願いいたします。】
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