吉澤くんが加わって女性看護師達も身なりや行動に変化がみられた。
それだけ、異性の目が気になってしまうのだろう・・・。
今の所、何も問題になっていないので安堵していた。
女ばかりの職場は、男ばかりの職場と同じで派閥がある。
私は前任の師長さんの派閥をそのまま受け継いでいた。
山崎さんは、もう一つの派閥のトップ・・・。
いずれは師長になる人だ。
私は前任の師長と同じ様に、新人教育とバックアップをしている。
吉澤くんが筋が良いと言っても他人の命を預かるお仕事。
この間、朝礼でも言った様にみんなで育てると言う事になっている。
みんな、何かと口実に吉澤くんに言い寄っている。
きっと、私の指導がキツイとかぼやいていると思っていた。
吉澤くんは、ぼやく事も無くお仕事に打ち込んでいる。
基本、私と同じシフトなので、その仕事ぶりは理解していた。
キツイ仕事もあるだろう・・・。
そう思っていても、笑顔で振る舞う吉澤くん・・・。
時折、私にも笑顔を振り向けた・・・。
他の子達には見せない笑顔・・・私はキュンとしてしまう。
いやいや、きっと勘違い・・・そう思って視線を逸らす。
やっと、お仕事にも慣れてきた頃、私がナースステーションで
日誌を書いていると、吉澤くんが血相を変えてやって来た。
吉澤くん
「ちさとさん、僕と付き合って貰えませんか?」
ちさと
「ち、ちょっと吉澤くん・・・冗談はやめて・・・何かあったの?
気持ちは嬉しいけど・・・ごめんなさい・・・」
唐突な告白・・・何人かの看護師から言い寄られて困っているとの事。
ずっと私に好意を抱いていた事を告白された。
しかし、私にも世間体があるし、吉澤くんの好意は受取る事は出来ないと
告げる・・・。
ちさと
(やはりあの視線はそう言う事だったの・・・)
私は満更でも無い気持ちも湧いていたが、理性でどうにか踏み留まる事が出来た。
そして、丁重にお断りした。
それでも、吉澤くんは諦め切れないと言う感じで・・・
吉澤くん
「わかりました・・・でも、諦めた訳じゃないですよ」
そう言って、更にお願いがあると言葉を続ける。
吉澤くん
「ひとつだけお願い聞いてください」
とさらに真面目な声で話しだす・・・。
吉澤くん
「山崎先輩よけにこれから『ちさとさん』と呼ばせてください。
それから少しだけ、パーソナルスペースを近くしますので、それだけ許して欲しいです」
ちさと
「そんな事をしたら、山崎さん気を悪くしてしまう・・・
みんなの前では森高師長と呼びなさい・・・。
二人の時は、ちさとさんでも良いから・・・それに・・・
パーソナルスペースを近くするのは・・・私は・・・構いませんよ」
とうとう、熱意にほだされて他の看護師にはさせていない事を
承諾してしまった・・・。
私は徐々に外堀を埋められている事に気付いていなかった。
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