男は普段電気工事の仕事をしていた。
電柱に昇り、ゴンドラに乗って配線の断線予防の作業や実際に断線した電線の補強作業などを主に執り行っている。
男の担当は〇〇市の一角。
京子や京子の友人が住んでいるのもその近辺である。
男は日中、業務の最中に周囲を見回し、めぼしい物件を見繕っていた。
また、早朝からの作業で動いていれば、そこに住んでいる人間がどういう人間なのかも実際に見てわかるわけだ。
下着だけでは身に着けている女性の年齢層まで判断することは容易ではないが、比較的若めの、20代、30代の女性ばかりが狙ったように被害に合っていたのはその為だった。
「しかし…最近は皆部屋干しだな…当然か、盗まれるリスクがあるんだから…。
わざわざ取ってくださいと言わんばかりに外に干す奴が馬鹿だと言われる世の中…。
やりにくいねぇ…。
この下着の女も、あれ以降はめっきり…やっぱり怖くなって部屋干しか…。」
…
……
………
夜も更け、男はいつものように地域を徘徊している。
その日はちょうど京子の住んでいるマンションの近くを歩いていた。
都合よく辺りはかなりの暗がり。
深夜1時2時ともなれば、どこも電気が消えており、街灯の本数の関係でかなり数メートル先が見えないほどだ。
それも相まって夜は人通りが極端に少ない。
「環境は最高…。
ただ獲物があれば…の話し…ん?」
普段はそもそも洗濯物すらかかっていない一室に見えるのは下着…それも、鮮やかな色の物。
挑発ともとれるように、隠すでもなくわかりやすく吊るされている。
「確かここの女は…。」
脳内で再生する、京子の姿。
いつもスーツ姿で割と早い時間に出ていく姿を。
にやりと笑みを浮かべ、周囲を確認するが人の気配もない。
常時身に着けているのは事後とでも使っている手袋や上り下りを楽にする道具がずらり。
数分もしないうちに男はその場を後にする。
物音の一つも立てず手慣れた犯行。
電気を消し、カーテンを閉めて様子を伺っていたはずの京子が気づかないほどの巧妙な犯行。
結果的に、赤い下着だけをポケットに忍ばせ男は立ち去るが、京子が気づくのはもっと後の時間だった。
【丁寧な描写ありがとうございます。
読みいってしまいました、表現に関してはそれで十分です。
引き続き、よろしくお願いいたします。】
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