心の内を吐き出すような…そんなメールを送信すると、身体に覆い被さるような重たい何かが取り除かれたような解放感があった。
大きく息を吐き出すと軽く感じる心。
今まで自分でも気づかなかった本当の自分を他人に曝け出す事ができた達成感…。
いや…誰かに告白する事で、自分自身を認めてもらえる承認欲求が満たされたのか…。
虚ろな眼差しで窓の隙間に視線を送る。
誰かがそこにいて覗いているかもしれない隙間。
それが例の男なのか…それとも今、たまたま目にしただけの他の男なのか…。
下着を晒し、他人の目に触れる様を写真に収めたぐらいの男ならば…この状況で他人に覗かれることも喜んでくれるのだろうか…。
そんな妄想を思い描いていると、床に置いたままのスマホが唸りを上げて振動を伝えてくる…。
「えっ…!?」
まるで私の心の中を覗き見られたかのような、女の心理を鋭く突いたような考察。
頭の中には幼い女子生徒の姿や二人の教師の姿。
そしてそれらの人々の心の中の思惑までもが透けて見えるような気がした…。
「私の中の欲望…。それはみんなが…。目覚めたかどうかの話…。」
誰もが何らかの形で持ち合わせている欲望が、覚醒しているのかしていないのか…。
それが早く訪れるのか未だ開花していないだけなのか…。
そんな個人差とも言える目覚めの時期の違い…。それだけのこと…。誰でも…。大差ない…。
私だけが特別なんじゃない…。どこか安心しながらも、そのあとのメールが私の心を震わせた…。
「十分…楽しませていただいた…?」
その一文を何度も読み返す。
その言葉の意味…。その裏に隠された意図…。
「えっ…!?どう言う事…!?楽しませていただいた…って…。」
その先の文面にその不安の答えはあった。
もったいないと思う…。
時間が割けなくなって…。
何人もの女に…。
「貴女の方が…。早ければ…って…!?」
その時、瞬時に真弓の存在が思い浮かぶ。
真弓は私よりも少し早く、あの人からの被害を受け、そこから見つけてしまった悦びを膨らませていた。
誰かに求められる悦び…。従う悦び…。
男を満たす悦び…。存在を認められ…与えられる悦び…。
そんなものを知ってしまった真弓は、あの人から歪んだ愛情を注がれている。
与える事で与えられる悦び…。
ギブアンドテイクを知っている…。
「そんな…。ちょっ…ちょっと待って…。」
追い縋るような思いのまま、送られてきた動画を見つめる。
イヤらしい姿の女。目隠しをして、口には脱ぎ捨てたと思われる下着を頬張るように咥え、乳房を弄り股間を撫で廻す。
口からは涎を垂れ流し、口からとも鼻からともわからない喘ぎを漏らす女。
僅かに見える表情からは悦びのような感情が見て取れる。
それにしてもどこかで見たことのあるような…。
そんな違和感を決定づけたのはベッドサイドに置かれたぬいぐるみ…。
「こっ…これ…。真弓…じゃない…。」
あの人から指示されたのだろうか…。変態的な自慰行為を自撮りしろと指示されたのだろうか…。
羞恥にまみれ…淫らに…自慰行為を晒す真弓に見入ってしまう…。
「真弓が…こんなにイヤらしいオナニーをしてるなんて…。しかも自撮り…。こんな事ができる女だったなんて…。」
頭の中には今日聞いた女子生徒の姿が思い浮かぶ。何も知らない少女が、人知れず開発され指示されるままに自慰行為を自撮りする姿と重なり合って見える…。
指の動きも激しくなる…。口や鼻から漏れ出す喘ぎも限界が近づいていることを物語る…。
激しく痙攣しながらイキ果てる真弓。堪らず横に崩れ落ちた真弓にカメラはズーム…。
いや…違う…。これは誰かが撮影していると思わせる映像。
そして…。
「あぁ…凄い…。精液が飛び散って…。」
どこからともなく吐き出された白濁した液体が、イキ果てて息を乱す真弓を汚していく…。
顔も…髪も…。咥えた下着も…。首筋や乳房にかけて…。大量の液体が汚していく…。
「真弓…こんな事も…してるんだ…。」
友人を心配に想う気持ちよりも、羨ましさの感情の方が強かったかもしれない。
そんな私の心の内を見透かしたかのようにパソコン画面が映しだされると、クリック音と共に床に置いたスマホが震えだした…。
「えっ!?」
メールは真弓から…。
「真弓が引き受けるって…。私の分まで引き受けるって…。真弓は…私もあの人に狙われていた事を知っていたの…!?
そんな…私はもう…用なしって事なの…!?」
絶望感が私を襲う。うな垂れて悲壮の表情を浮かべる私。全身から力が抜け、まるで魂すら抜け出してしまったかのような脱力した姿…。
何も考えることが出来なかった。何かもの凄く大切な何かを失ったような…。
過去の失恋でも感じたことのないような想い。
そんな抜け殻のような私を目の前のカメラは逃すことなく捉えている。
どれほどの時をそのまま過ごしていただろう…。
意識があったのか…夢でも見ていたのか…。
朦朧とする意識の中で、私の中で更に何かが目覚めたかのように、スマホを手に取るとメールを打ち始める…。
≪私は…。もう…用なしと…言うこと…なんですね…?真弓がいるから…真弓で楽しむから…私は必要ないと…。
真弓が貴方の欲望を叶えるから…。真弓を好きなように操れるから…。
真弓は…貴方の希望は何でも叶えるの…?真弓にできないことは何も無いの…?
真弓にできない事…。私にはできるのかもしれない…。私なら…貴方の言う事…全て叶えられる…。
なのに私は…もう…お払い箱…。≫
恨み節とも思える、今考えられる全てを文字に変えてメールを送り終えると自然と涙が零れ落ちた…。
私を包む虚無感が全裸のままその場へ崩れ落ちるように横たわり、深い眠りへと落ちていく…。
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