「…っ、…!」
おおよそ父親になろうという人間の言い分じゃない朝倉の言葉に言い返そうにも自分の過去が足を引っ張り言葉にならない。
今まで母と二人きりだったこの家に男が、それも母を雌としてしか見ていないような男が入り込んでくる。
そしてその毒牙は当然のように自分にも向けられていて、愛美は絶望にような大きな不安に駆られてしまう。
『愛美〜雄介さん〜!もうすぐご飯出来るからこっちのテーブルにいらっしゃい』
そんな愛美の不安とは裏腹に能天気な母の声が振ってくる。
一瞬ビクッとなる愛美とは対照的に何も無かったように朝倉は離れると由香里に声をかけながらそのままリビングを出て行った。
愛美は乱れたスカートを整えながら少し間をおいでキッチンへと向かう。
テーブルにはいつもより豪華な食事が並んでおり母と朝倉はすでに並んで席に座っていた。
『雄介さんと愛美の好きなもの作ったからたくさん食べてね』
「………うん、ありがとうお母さん。いただきます」
ニコニコと笑う母に心配させないよう何とか笑顔を作るとご飯を口に運んでいく。
目の前で楽しそうに談笑し、時々恋人のように触れ合う二人をどこか違う世界を見る気持ちで眺めながら、愛美一人だけが不安を抱えたまま時間がすぎていった。
夜10時。
いつもならまだリビングでテレビを見ている時間に愛美はすでに自室にいた。
朝倉の言った通り今日はやけに母は愛美を早く寝かしつけようとしてきた。
お風呂も上がり手持ち無沙汰でベッドに寝転がっていた愛美だが、先ほどまでリビングから聞こえていた二人の声が消えていることに気づいた。
ぞくりと言いしれない不安が背筋を撫でる。
朝倉の言葉を全部信じた訳じゃないが、それでも母のあの朝倉への陶酔振りを見ると気にするなという方が無理だ。
この一軒家は1階にリビングとキッチン、お風呂や洗面所があり、そして階段を降りてすぐ横には母の寝室がある。
愛美の部屋はその真上の2階にあった。
音を立てないようにゆっくりベッドからおりると静かに階段をおりていく愛美。
そして微かに漏れる部屋の光に誘われるように母の寝室の前に来れば、いつもはしっかり閉まっているドアが少しだけ隙間を作るように開いていた。
『ぁっ…ゆ…すけさ…っ…ァッ…ぁん…っ…』
そこから漏れ聞こえてくる声。
耳を塞ぎたい衝動を耐えながらも少しずつ少しずつ近づいていく。
そして愛美はその隙間から中を覗いてしまった…
※元投稿はこちら >>