脳はアルコールでブレーキが効かなくなっており、尿意がここまで限界に達するのに気が付かなかった。
トイレに行きたい、とカミングアウトしてもなお、汗本や禿田が身体をベタベタと触り、下腹部を刺激しようと押し込んだりしている。
その度に冗談ではなく、本気で漏らしかけ、懸命に踏ん張るのだった。
追加の酒を押し付けられ、身体を触られ、誰が何をどうしているのか、もはやよくわからない。
ぐるぐる目まぐるしく視線を泳がせていたが、『ガンッ』という勢いのある音がテーブルから鳴り、そちらに視線が行く。
「…それに…?む、むりむりっ、やだっ、おしっこやだぁっ!!」
これまた周りも驚く。
いつにも増して饒舌な筋山に対し、反抗的で生意気な普段の姿とは似ても似つかない、子供のような駄々っ子のように嫌がる花崎。
首をブンブン大きく振り、その度に大きな乳房がぷるぷる左右に揺れる。
小便すらショーにしようとする男たちを潤んだ、もしくは据わった目で睨みつけ、トイレを目指して、廊下に向かって歩き始めた。
ペタ
靴下も脱ぎさった裸足で第一歩を踏み出す。
もう2歩目に差し掛かるどころで
「ぁっ、ぁあっ!!きゃああっ!!」
足がもたつき、体制を崩して、壁にもたれてしまう。
気を取り直して、廊下に行こうしても、今度はフラついて転びかけ、またもや壁へ。
もはや支えがなかったら立っていることが精一杯の状態に気がつく。
(なんで、廊下遠いの…?地震が来てる…?違う、く、薬だっ、覚醒剤とかそういうの、だっ!)
当然地震でもなければ、薬物を盛られたわけでもなく、単純に泥酔しているだけなのだが。
しかし、男性に対する嫌悪や敵意は健在で、何かされたのだと、憎しみがこもった瞳を筋山に向けた。
まともに数歩すら歩けない花崎の様子を見て、ゲラゲラ笑う男たち。
(もう歩けない、ダメ、本当に漏れる…。もうなりふり構ってられ…な…)
笑い者にされていることに憤ることも間もなく、激しい尿意に襲われる。
この様子だと、廊下の先、玄関付近のトイレまで到底辿り着けない。
ここは社長の知り合いの店。小便を漏らしたとなれば、問題になることは間違いない。
勝ち誇った筋山を酒で定まらない瞳で睨みつけながら、テーブルに足をかけたが、体重を乗せた瞬間、かくんっと関節から力が抜け、ひっくり返るように転んでしまう。
「…ッ、キャアッ!!」
甲高い悲鳴と共に、テーブルを大きく揺らしながら転び、着地先となったのは斎藤。
抱きつくように転び、斎藤がクッションとなって辛うじて怪我はなかった。
斎藤には大きな乳房や汗ばむしっとりとした身体が押し付けられ、いつもより色濃い体臭、フェロモンが香り、ズボンにははち切れんばかりのテントを張り出す。
その勃起は花崎にもあたっているが、苦悶の表情を浮かべる花崎にはそんな余裕がなかった。
(ちょっと漏れたかも…、漏れてない…?か、な、大丈夫…かな…。もう、本当にやばい、漏らしてないの、奇跡…。もう、無理、ダメ、やばい…。)
頭の中ですら語彙力を失い、抱きついたように倒れながらもう少しも動けない。
尿道に力を入れ、それ以外に力が入ると途端に漏れる。そんな気がしていた。
花崎の苦労も知らず、取り巻きたちは酒を飲みながら「おっ、花崎がとうとう新入社員を襲ったぞ!」「枕だけで契約ナンバーワンは伊達じゃないな」「花崎と契約すればマンコもセットだもんな!」花崎がいない場所での陰口を堂々とヤジを飛ばしていた。
「……さい。」
斎藤の身体に体重を預けたまま、小さく呟く。
当然聞こえず、筋山は大袈裟に聞き返す。
「…ッ、おしっこしたいからっ、手伝ってくださいっ!おしっこみてくださいって言ったのっ!なんでも良いからもうはやくしてっ!漏らしちゃうんだってばっ!!」
逆ギレ、ヒステリー。
そう表現もできる言い方だが、どう考えても被害者は花崎で。
大きな声を出すことさえ、膀胱に力が入り、大袈裟なほどに太ももを閉じて内股になってしまう。
【ありがとうございます。
今はお酒でまともではない状態で、ギャアギャアと騒いでいられますが、素面になった時は覚えておらず、動画を見せられて絶望したり、「訴えてやる」と息巻いても、「この動画や写真をばら撒く」と脅され…みたいなことになりそうですね。
(本当だったらそれでも警察や弁護士へ、ですけどね)
筋山さんもなかなか良いですね。
普段から成績を競い合い、ライバル視している筋山。
花崎としては、上位にさえ入れば良いし、その延長でトップになったら、尚更でかい顔をされずに済む、というだけであり、特に意識もしていない相手。
それが筋山からすれば、一方通行な、相手にされていないような感じがして、一層敵意を持ってしまう…みたいな、そんな想像までしてしまいました。】
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