「あ、はい…。
2か月に1回の飲み会は全員参加…とお聞きしました…。」
4月入社の斎藤。
魅力的な教育係に恵まれた、と思ったのも束の間。
挨拶ついでに聞いていた職場環境の悪さを肌で感じている中で初めて迎える、恒例の飲み会、なるものについての話だった。
飲み会そのものが嫌いなわけではなかったが、普段から柔らかい笑顔を崩すことのない花崎の少し曇った表情を見ていれば、ミスを重ねる新入社員とてある程度は想像ができてしまう。
ろくでもない飲み会なのだろうな…と言うことは。
先輩とは言っても、年齢はさほど変わらないと聞いている。
何度も、こんなに良い人がなぜこんな会社に残って頑張っているのか、聞きたくなるほどいい意味で浮いた存在に映っていた。
一周回ってなんで怒鳴られているのかもわからなくなってしまう職場環境の中で、自分のミスも自分事のように。
真摯に、ひたむきに接してくれる花崎という先輩。
「あの…、何かあっても、ほら…だいたい俺のミスが原因じゃないですか…。
ちゃんと、謝ります。
先輩の所為じゃないですから、むしろそれをかばって一緒に謝ってくれて…、ほんと…何時もすいません。
だから先輩は…、かっこ悪くなんかないです…。
かっこ悪いのは…あいつらじゃないですか…。」
あいつら…、と口にしながら、普段から何かにつけて罵詈雑言を浴びせてくる諸先輩方に視線を送る。
もちろん、面と向かって口答えするほどの経験もなければ、男としての意地、のようなものもない。
体裁を繕うように、そう言ってはみたものの、自分の代わりに怒鳴られている花崎の間に入って謝罪、という行動に結びついたことは一度もなかった。
仕事自体は真面目に取り組んでいる。
普通の会社で、普通の環境に恵まれれば、普通の結果を残し、普通の生活ができるタイプの人間ではあると思う。
しかし、肝心なところでは委縮してしまい、開いた口からは言葉は出てこず、そのまま閉じてしまうのだ。
そんなたらればを、入社から何度口にしたことか。
そんな根っこの弱さ…、それが結果花崎の心をさらに追い込む形になってしまうとは、花崎はおろか、斎藤自身もわかっていない。
…
……
「やっと飲み会月じゃないか…。
先月、今月と花崎の成績…把握してるよな…?」
「あぁ…、上手くいったんじゃないか…?
あの斎藤とか言う新人…、頑張っちゃいるが…、その頑張りがちょうどいいネタ、になってくれそうだもんな…?」
「確かに。
それにつけて、花崎のあの無駄に高いプライド…、へし折るにはいい機会じゃないか…。
唯一の拠り所だった、同期も…止めちまったしな…?何ちゃんだっけ…?」
「忘れちまったな…。
ちょっと飲み会でふざけただけなのによ…?その付けも、花崎に清算してもらうとするか…?
楽しみだねぇ…。」
花崎たちの飲み会への懸念は的中していた。
いや、それ以上の状況が巻き起ころうしてしているかもしれない。
社御用達の居酒屋。
そこで行われる定期的な飲み会は、関係者以外がほぼ立ち入り禁止のブラックボックスのようなもの。
それが、じわりじわりと暑さも増してくるこの季節に、やってこようとしているのだ。
「おい、花崎。
今回の飲み会は斎藤の歓迎も兼ねてんだ。
遅れんなよ?先行ってるからな?」
いつものように膨大な業務を花崎…ではなく、斎藤に押し付けることで、それを良しとしない花崎が身代わりになることを想定した業務振り。
確実に間に合わない飲み会開始時間からの参加は、狙った引き金のように男たちをにやつかせ、我先にと社を後のしていった。
「お、俺も急ぎます。
俺のせいで先輩ばっかり怒られるのはほんと、勘弁なんでっ。」
と息巻いて業務に取り掛かるも、当然というべきか開始時間はまもなくという時間に。
【とても分かりやすい導入でありがとうございました。
補足も入れてくださっているので、何一つ違和感も抵抗もありません。
あとはこちらがどれだけ期待に応えられるか、にかかってきますね。
頑張らないと。
こちらの体型や容姿などにお好みはありますか?
あるいは周囲の諸先輩方の体型等も含めて。】
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