「やっぱりね…。いいよ…今日はゆっくりショッピングを楽しもうか…。」
妻を見つめる笑顔。その表情からは昨日の欲望は微塵も見えない。
それは日常と欲望を切り離す事でオンとオフを使い分けるほど俊幸は器用ではなく、心から溢れ出した真の笑みだった。
「昨日は…いや…昨日のことは考えないことにしよう…。」
準備を始めた妻を見ると、一人クローゼットに向かいながら呟いた。
「確か…あのスカートが…。」
まだお互いに日々を楽しく過ごしていた頃に妻へ送ったスカートの存在を思い出した。
何度かそれを纏う姿を見た記憶はあるものの、最近では見た…と言うか…二人連れだって出掛ける機会も減った為かその姿を思い出すことも難しくなっていた…。
「コレだコレ…。」
ヒラヒラと風でなびくような柔らかな素材のミニスカート。紺色にストライプと言う清楚なイメージも併せ持つ…。
せいそな見た目でありながら、どこかで何かを期待してしまうようなデザインのスカートは、結婚当時に意識したことはなかったものの、今にして思えば既に寝取られの性癖は俊幸の中に芽生えていたのかもしれない…。
「今日も暑くなるからね…。」
そんな言葉で妻への気遣いを表したものの、そこに邪心が無かったとは言えない…。
無意識の邪心…。平静を装うつもりなどなくとも、意識とは違う何かが妻を危うい状況に追い込むお膳立てに働いているのか…。
「行こうか…。」
ショッピングモールまでは公共の乗り物で向かうことにした。それは休日の駐車場の混雑を嫌ったから…。それが本心ではあったものの、もうひとつの要素を俊幸は僅かながらに計算に加えていた…。
『やはりな…あのアーティストのライブとなれば…このぐらいは当たり前だな…。』
ショッピングモール近くのコンサートホール。そこで人気のアーティストのライブがあることを知っていた。
ある程度の混雑も想像はしていたが、正直ここまでだとは…。
『それにしても人が多すぎるな…。それに…駅前に近づくにつれて…陽子に注がれる視線の数が増えた…。』
明るい陽射しを遮るものがない外の世界。そこに輝くような美しさと、少女のような清純さ、それに色香を増した妻をコーディネートした夫の下心によって一際注目を集める妻の姿。
羨望の眼差しを向ける者に対しては優越感を抱き、好奇な視線を浴びせる者へは眠り掛けていた被虐的な感情が疼き始める…。
「凄い人だな…。ちょっとごめん…トイレに行ってくるから…。」
人ごみの中に妻を残し、トイレに向かう俊幸。
行き交う人の流れに身を隠しながら手にはスマホを持って妻の姿を眺める。
俊幸の姿を視線で追う訳でもなく、一人俯いたり周りを眺めたりする妻の姿を写真に収める。
『いいのか…?ホントにそんな事をして…。誰が来るかもわからない…身元が保証されたあの店とは違うんだ…。』
トイレの個室に入ると以前から興味があり覗いていた痴漢が集まるサイトに入っていく。
痴漢体験は男女共に数多く寄せられ、盗撮された画像や痴漢を募集するカテゴリーまで…。
そこに俊幸は…。
≪今日、これから〇〇駅から〇〇駅まで妻に痴漢して下さる方を募集します。
移動距離が短いので、それほどハードな事にまで及ぶ時間はありませんが、私にバレまいと痴漢の責めに翻弄される妻の背徳心を煽っていただければと思います…。≫
そんな言葉で痴漢を募集し、目印にと妻の写真を合わせて投稿してしまう…。
『とはいえ…今の今じゃな…。この投稿を見てここに来たところで…もう俺達はここには居ないんだから…。』
俊幸は自己満足的な少しの興奮を得られればと軽く考え、サイトに投稿していた。
コメントを見た後に行動を起こしても何も起こらないだろうと…。
「ごめん…お待たせ…。さぁ行こうか…。それにしても凄い人だな…朝の通勤ラッシュ以上じゃないか…?」
妻とはぐれないように妻の手を握るとホームに向かって階段を上る。
ホームにも人はごった返し、ホームに入りきらないほどの人々が電車を待っている。
「コレ…乗れるかな…。」
滑り込んできた電車になだれ込む人波に押されて、繋いだ手が辛うじて妻と離れる事を逃れ、押し込まれた身体は身動きが難しいほどに妻と向き合う形で車両の中程に詰め込まれた…。
「とりあえず乗れたな…。まぁそんなに長く乗る訳でもないし…少し我慢すれば…。」
人ごみ特有の息苦しさの中、耳元で妻に囁く俊幸。
程なくして扉は閉まり、ガタンと揺れた衝撃が電車が走り始めたことを伝える。
『こんなに混んでいたら…陽子を見つけたとしても近寄る事すらできないだろう…。
まぁ…あのサイトから痴漢を呼び込むのは不可能だろうな…。』
そんな事を考え暫く揺れに身を任せていると、陽子の身体に揺れとは違う別の振動を感じた。
俯く陽子。俊幸の位置からは何も確認できない。忙しく游ぐような俊幸の視線は、何かを見つけようと陽子の周りに意識を向ける。
『確かに陽子はビクンと震えた…。まさか…痴漢…?あのサイトを見て…?まさかな…痴漢だとしたら…偶然…?』
痴漢かどうかも判断できない状況で、頭の中はグルグル考えを廻らせている。
その最中にも陽子は俯いたまま、よく見れば少し耳朶が赤く染まっているようにも見える…。
『まさか…ホントに痴漢されて…?いや…満員電車が暑いだけかもしれないしな…。』
状況が把握できない中で、詰め込まれた身体は他者からの視線を遮るのに都合が良く、陽子の背後に立つ男は陽子のスカートを捲り上げ、ストッキング越しに妻の柔らかなお尻の上をパンティラインに沿って指先を這わせているとは気づかなかった…。
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